【分野】磁気物理

【タイトル】反強磁性電子と共存する高温超伝導電子 ~銅酸化物高温超伝導体に潜む30年来の未解決問題に終止符~
【出典】So Kunisada, Shunsuke Isono, Yoshimitsu Kohama, Shiro Sakai, Cedric Bareille, Shunsuke Sakuragi, Ryo Noguchi, Kifu Kurokawa, Kenta Kuroda, Yukiaki Ishida, Shintaro Adachi, Ryotaro Sekine, Timur K. Kim, Cephise Cacho, Shik Shin, Takami Tohyama, Kazuyasu Tokiwa, Takeshi Kondo、
“Observation of small Fermi pockets protected by clean CuO2 sheets of a high-Tc superconductor”
Science 369, 833–838 (2020)
• DOI:10.1126/science.aay7311

【概要】東京大学物性研究所、東京理科大学基礎工学部と理学部、理化学研究所創発物性科学研究センターの研究グループは、構造的に平らでかつ電荷分布が均一で綺麗な超伝導結晶面を内部にもつ多層型の銅酸化物高温超伝導体に着目し、レーザー光電子分光を用いた電子構造の精密測定、および強い磁場を用いた量子振動測定を行うことで、反強磁性と高温超伝導が共存する性質を解明した。

【本文】高温超伝導は、20世紀後半の物理学における最も重要な発見の一つであり、特に高温超伝導が1986年に発見されて以来、その物理的性質があらゆる角度から研究されてきた。銅酸化物高温超伝導体は、キャリアを注入されていない状態では反強磁性モット絶縁体であり、CuO2面にある一定量以上のキャリアを注入することで超伝導体となる。その際に「反強磁性を乱さずに超伝導電子を形成できるのか」、はたまた「超伝導電子の形成には反強磁性を乱すことを前提とするのか」、の2択で大きな論争があった。
当研究グループはCuO2面を5枚持つ多層型銅酸化物高温超伝導体に着目した。それは、電荷供給層に隣接しない内側に配置されたCuO2面を有し、電荷供給層がもたらす空間的に不均一なキャリア注入や欠陥の影響が外側のCuO2面によって保護されているため、理想に近い極めて「綺麗な超伝導面」として機能することが期待されるからである。精密なレーザー光電子分光測定および強い磁場を用いた量子振動測定から、外側のCuO2面に比べ内側のCuO2面では伝導電子の散乱が抑制され寿命がより長く、確かに「綺麗な超伝導面」が形成されていることを見出し、30年もの間予想されつつも観察されずにいた「小さなフェルミポケット」を初めて観察することに成功した。この「小さなフェルミポケット」は反強磁性状態を反映しており、これにより、反強磁性電子と高温超伝導電子が共存できることが実証された。

(文責 梅津理恵)