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【分野】 磁気記録

【タイトル】マイクロ波アシスト磁気記録における新規アシストメカニズム

【出典】The Magnetic Recording Conference (TMRC) 2020. Takeo et al. “Extended Concept of MAMR and Its Performance and Reliability” 講演番号C1およびNarita et al. “Design and Numerical Study of Flux Control Effect Dominant MAMR Head: FC Writer” 講演番号C2

【概要】東芝およびHeadway Technologyは、日本時間2020年8月19日にオンラインで開催された磁気記録国際会議(The Magnetic Recording Conference (TMRC) 2020)において、新しいコンセプトのマイクロ波アシスト磁気記録ヘッドについて発表し、従来HDDに比べて記録密度の増大を実証した。

【本文】垂直磁気記録(PMR)は面記録密度の限界に達しており、瓦書き(Shingled)記録および2次元記録による記録密度のゲインは限定的である。そのため、熱アシスト記録(HAMR)およびマイクロ波アシスト記録(MAMR)の実用化が急務である。
MAMRは、スピントルク発振素子(STO)が発生する>10 GHz帯域の交流磁界によるアシスト効果を利用するものであり、Carnegie Mellon UniversityのZhuによって考案された。今回東芝は、高周波磁界によるアシストとは異なる書き込みアシスト方式について紹介し、PMRに比べて記録密度が改善されることを製品レベルのHDDにおいて実証した。
図に示すように、MAMRヘッドは磁極ギャップにSTOを挿入した構造であるが、磁極からの磁束がSTOにバイパスすることによる書き込み磁界のロスが発生する(図(a))。そのため、書き込み磁界が従来のPMRヘッドに比べ小さくなる問題がある。理想的なMAMRヘッドではSTOが面内にスピントルク発振した状態を用いる(図(b))。新方式では、図(c)のように、スピントルクによるSTOの強磁性体層の磁化回転を利用して、書き込み磁界を増大させるものである。発表ではこれをRecording flux control effectと呼んでいる。このとき、STOは数10 GHzの周波数でスピントルク発振しているが、磁界の面内成分が小さいため、高周波アシスト効果は限定的である。
 ニアライン(サーバー)用3.5インチHDDにおける面記録密度が検証され、PMRの1.25 T flux/in2 注)に比べ、Recording flux control effectを用いたMAMR-HDDでは1.4 T flux/in2に増大することが実証された。これは書き込み磁界勾配の急峻性の改善による、リニア方向の記録密度の増大によるものである。MAMRをもちいた大容量HDD(1ドライブあたり20 TB以上が予想される)の早期の市場投入が期待される。

注)fluxとは記録媒体の磁気パターン数を意味し、ユーザービット密度bit/in2はflux/in2にチャネルのコードレート(おおよそ80~90%)をかけた値となる 。

(物質・材料研究機構 中谷友也)

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