179.02

【分野】磁気応用

【タイトル】電波望遠鏡向け高感度・小型マルチバンド受信機を開発

【出典】株式会社東芝 研究開発センター 技術情報 (9月29日)
http://www.toshiba.co.jp/rdc/detail/2009_01.htm
東芝レビュー 一般論文 75巻3号43-46(2020年5月)
https://www.toshiba.co.jp/tech/review/2020/03/75_03pdf/f02.pdf

【概要】株式会社東芝は、天体観測に使用される電波望遠鏡向けに小型マルチバンド受信機を開発した。この受信機は、超伝導回路の特性を活用した独自のマルチバンドフィルタの搭載により、携帯電話の基地局などから出る電波の干渉の影響で観測が難しかった周波数帯1.4GHz~2.4GHzの天文観測において高感度の観測を可能とする。さらに、超伝導状態の維持に必要な冷凍機の消費電力を1/30に、サイズを従来の1/10以下にすることに成功し、大幅な小型化を実現した。

【本文】電波望遠鏡は、天体から地上に届く微弱な電波を様々な周波数で観測し、宇宙で起こる様々な自然現象を解明するのに威力を発揮している。ブラックホールから噴出されるガス(ブラックホールジェット)の観測などで受信する周波数は、スマートフォン等の無線システムが使用している周波数帯域と近接しているため、電波干渉の問題が顕在化している。そこで、当社独自の高周波回路技術と高温超伝導体であるYBCO薄膜を用いたフィルターを組み合わせることで、複数の周波数帯に跨る微弱な天体の電波をほとんど劣化させずに受信することができる超伝導マルチバンドフィルタを開発した。これを用いることで、従来外部からの干渉波により観測が難しかった周波数帯1.4GHz~2.4GHzでも電波望遠鏡を用いた観測システムが構築可能となる。さらには、冷凍機を大幅に小型化する高断熱な配線技術を開発し、高断熱特性と低損失性の両立に成功した。これにより、超伝導回路を用いた装置の小型化を実現し、従来設置が難しかった場所への設置も可能となるだけでなく、他の超伝導回路システムへの応用も期待される。
東芝ホクト電子株式会社において受信機を製造し、国立天文台およびタイ天文台に試験導入して超長基線電波干渉法にて観測を実施した結果、天体からの電波を検出し、干渉縞を観測できることを実証した。今後、本受信機を国内の複数の電波望遠鏡に組み込み、実証を進めて早期の実用化を目指す。

(文責 梅津理恵)

磁気物理

前の記事

179.01
スピントロニクス

次の記事

180.01