【分野】磁気物理

【タイトル】ハードX線ラマン散乱磁気円二色性によるスピン観測の可能性

【出典】
Manabu Takahashi and Nozomu Hiraoka, Physical Review B 100, 094435, (2019); https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevB.100.094435
Magnetic circular dichroism in hard x-ray Raman scattering as a probe of local spin polarization

【概要】
内殻を励起するハードX線ラマン散乱(XRS)のスペクトルはX線吸収(XAS)スペクトルと同等であることが知られているが、磁気円二色性(MCD)も観測できる。強磁性金属鉄のL端、K端においてXRS-MCDを観測し、理論計算と一致することが示された。XRS-MCDは信号強度が励起先の軌道のスピン分極と軌道分極に比例部分を含み、磁気回折と同様の条件で、XRS-MCDの強度は励起先の軌道のスピン分極に比例することを示した。本研究により、XRS-MCDはハードX線を用いた3d遷移金属のL端・4f希土類のM端等のスペクトル解析手法として、高圧状態の磁気的電子状態の解明等に資する新しい測定手法となることが期待される。

【本文】
National Synchrotron Radiation Research Center, Taiwan の平岡望と国立大学法人群馬大学理工学部の高橋学らは、ハードX線ラマン散乱(XRS)スペクトルの磁気円二色性の観測に成功し、その発現機構を理論的に解明することに成功した。実験は、SPring-8-BL12XUにおいて行われ、強磁性金属鉄のL23端、M23端励起に対応するスペクトルが測定され、XRS-MCD強度のエネルギー損失依存性、角度依存性、励起端依存性を明らかにした。
 測定されたXRSスペクトルは、基本的には吸収(XAS)スペクトルと似た形状となるが、XRS-MCDとXAS-MCDスペクトル形状は全く異なる。スペクトル形状は、散乱ベクトルと磁化ベクトルの相対的な向きに依存する。XRS-MCDの発現機構は、XAS-MCDの発現機構と異なり、むしろ磁気回折の機構と似ている。L1やM1端でもMCDが観測可能であることを示している。XRS-MCDの注目すべき特徴は、磁気回折と同様、散乱ベクトルと磁化ベクトル角度が135度のとき、MCDの強度が励起先の軌道のスピン分極に比例し、単純な積分MCD強度がスピン分極に比例することである。
ハードX 線で軟X線領域の内殻励起を観測できるという特徴を活かし、極限下で元素選択的に電子状態の分析を行う道具としてXRSが利用されるようになってきたが、本研究により、スピン分極測定も可能であることが示された。軌道分極率をどのようにして導き出すかの課題は残されているが、散乱強度スペクトルだけでなくMCDスペクトルも分析することでXRSから得られる知見はかなり増えると考えられる。観測技術の進歩に期待したい。
 本成果は、2019年9月に、米国物理学会学術誌Physical Review Bから出版された。

(群馬大学 櫻井浩)