【分野】スピンエレクトロニクス

【タイトル】スピンネルンスト効果の観測に成功

【出典】
S. Meyer, Y. T. Chen, S. Wimmer, M. Althammer, T. Wimmer, R. Schlitz, S. Gepraegs, H. Huebl, D. Koedderitzsch, H. Ebert, G. E. W. Bauer, R. Gross, and S. T. B. Goennenwein, Observation of the spin Nernst effect, Nat. Mater. 16, 977 (2017).

P. Sheng, Y. Sakuraba, Y.-C. Lau, S. Takahashi, S. Mitani, and M. Hayashi, The spin Nernst effect in tungsten, Science Advances 3, e1701503 (2017).

【概要】
ドイツと日本の2つのグループがそれぞれ独立に、熱の流れを横スピン流に変換する「スピンネルンスト効果」の観測に成功した。ドイツWalther-Meißner-Institut、理研、東北大学のグループと、物質・材料研究機構、東北大学、東京大学のグループはそれぞれ、白金とタングステンでスピンネルンスト効果が発現することを見出した。

【本文】
 スピン流に起因する物理現象やデバイス設計に関する研究が活発化している。スピン流を厚さ数ナノメートルの強磁性薄膜に注入すると、強磁性体の磁化方向を高効率に制御できるため、高性能の不揮発性磁気メモリへの応用が期待されている。一方でスピン流に由来する熱電効果は、ナノ領域での新規サーマルマネージメント技術として注目されている。さらなる技術革新を生み出すには、スピン流が発現する原理を解明し、より大きなスピン流を誘起できる材料・構造の開拓が重要となる。
 研究グループは今回、スピン軌道相互作用が大きい5d遷移金属の白金(Pt)とタングステン(W)において、熱流を印加するとスピン流が熱流と直交する方向に生成されることを見出した。これまで、PtやWなどの重い金属に電気を流すと、電子の移動に伴って電流と直交する方向にスピン流が発生する「スピンホール効果」が発現することが知られている。今回、熱流の印加によって生成されるスピン流が、熱起電力測定を通して観測できることが報告された。熱起電力測定から、スピンネルンスト効果のスピン流の生成効率は、スピンホール効果のそれとほぼ同等であることがわかった。一方でスピンネルンスト効果で生成されるスピン流のスピンの向きは、スピンホール効果のそれと逆であることがわかり、電子構造に起因したスピン流生成機構が寄与していることが示唆されている。
 今回の成果はスピン流を効率的に生成するための材料設計の指針を与えるものである。スピンネルンスト効果を利用することで、正味の電子の流れがまったくない開回路の状況でもスピン流が生成できることが明らかになった。これにより、スピン流を用いた効率的な磁化制御技術や、ナノスケールのサーマルマネージメント技術など、今後のデバイス開発に大きく貢献すると期待される。


Fig.1 スピンホール効果とスピンネルンスト効果(左)スピン軌道相互作用が大きい金属に電流を流すとスピンホール効果によって、電流と直交する方向にスピン流が生成される。(右)今回の成果:金属に熱流を流すと、熱流と直交する方向にスピン流が発生するスピンネルンスト効果の観測に成功した。

物質・材料研究機構 中谷友也