【分野】スピンエレクトロニクス

【タイトル】Si/SiO2基板上に作成したMgAl2O4障壁トンネル磁気抵抗素子のTMR効果

【出典】
Ikhtiar, Hiroaki Sukegawa, Xiandong Xu, Mohamed Belmoubarik, Hwachol Lee, Shinya Kasai, and Kazuhiro Hono, “Giant tunnel magnetoresistance in polycrystalline magnetic tunnel junctions with highly textured MgAl2O4 (001) based barriers”, Appl. Phys. Lett. 112, 022408 (2018), http://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.5013076.

【概要】
物質・材料研究機構(NIMS)磁性・スピントロニクス材料研究拠点のIkhtiarらは、熱酸化膜つきSi基板上に(001)配向したMgAl2O4 バリアを有する多結晶磁気トンネル接合を作成し、CoFeB電極との組合わせで240%を超える大きなトンネル磁気抵抗効果と良好なバイアス電圧依存性を示した。

【本文】
磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)をはじめとするスピントロニクスの産業応用においては現行の半導体工程との親和性が求められるため、Si/SiO2基板など多結晶ベースでの性能実現が課題となる。これまでNIMSの磁性・スピントロニクス材料研究拠点は、CoFe等の強磁性電極と格子整合するMgAl2O4系(Mg-Al-O)バリア材を見出し、これをトンネル磁気抵抗素子(MTJ)に適用して高いトンネル磁気抵抗(TMR)比やそのバイアス依存性の改善を示してきた。しかしながらこれらはMgO単結晶基板を用いた結果であり、他グループによる多結晶系の検討において得られたTMR比は100%未満にとどまっている。これはMgOに比べMg-Al-Oバリアが多結晶ないしアモルファス強磁性電極上では結晶化し難いことが一つの要因と考えられてきた。 
今回Ikhtiarらは、Mg-Al-Oバリアの(001)結晶配向を促進するためCoFeB下部電極とバリアの間にCoFe/MgO層を挿入し、熱酸化膜つきSi基板上にMTJスタックを室温成膜した。具体的な層構成は(Si/SiO2/Ta (5)/Ru (10)/Ta (5)/CoFeB (5)/Co75Fe25 (tCoFe=0.1-1.2)/MgO (tMgO=0-0.7)/Mg-Al-O (1.2)/CoFeB (3)/Ta (5)/Ru (5) (膜厚単位 nm)である。ここでMg-Al-OバリアはMg-rich(Mg31Al15O54)およびAl-rich(Mg14Al29O57)種類のターゲットをそれぞれ用いた(ICP分析による実際のバリア膜組成はそれぞれMg70Al30-OおよびMg40Al60-O)。この結果、例えば挿入層MgO (0.38 nm)/CoFe (1.0 nm)とMg-richバリアを組み合わせピラー状に加工したMTJ素子に500℃の熱処理を施したケースでは、242%という大きなTMR比を達成した。Al-richバリアとの組み合わせでは若干低いTMR比と面積抵抗(RA)積の増大がみられたが、これはX線回折の結果からMg-richバリアに比べて配向性が低いことに対応している。またいずれのバリア組成でもTMR比のバイアス電圧依存性から半減値Vhとして約1.4 Vを得ており、これは単結晶基板上の結果と同等であった。
本結果はスピネルバリアの実用化に向けた道を拓く成果である。著者らはバリア組成や挿入層の最適化により更なる性能改善が期待できるとしており、今後の進展が待たれる。