【分野】
スピントロニクス

【テーマ】
「軌道弾性効果」の実証 ~磁化配向の低電力電界制御に指針~

【出典】
 npj Quantum Materials 4, 21 (2019).
参考ページ  https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/6392/

【概要】
BaTiO3結晶は電圧印加によってひずませることができる強誘電の性質があり、これを利用して、その上に堆積したNiとCuの多層膜に可逆的にひずみを印加できます。今回、電圧によるひずみを利用して軌道角運動量と磁気異方性が電圧により可逆に変化することを電圧印加時におけるX線磁気円二色性スペクトルの計測と理論計算から明らかにしました。

【本文】
東京大学大学院理学系研究科の 岡林 潤 准教授、物質・材料研究機構の 三浦 良雄 グループリーダー、名古屋大学の 谷山 智康 教授による研究チームは、誘電体であるBaTiO3結晶の上に原子レベルで制御してNiとCuを交互に積層した磁性多層膜において、電圧により磁気異方性を操作できるメカニズムを動作中(オペランド)X線磁気円二色性(XMCD)分光と第一原理計算を用いて解明しました。特に、電圧を印加してNiにかかるひずみ量を可逆的に変えた状態でのオペランドXMCDの測定システムを高エネルギー加速器研究機構放射光施設KEK-PFビームラインBL-7A(東京大学大学院理学系研究科スペクトル化学研究センター)にて立ち上げて、軌道角運動量の変化を捉えることに成功しました。得られた結果は、ひずみと化学結合の変化による軌道角運動量の関係を明確にするものであり、スピンと軌道とひずみの三者の関係を微視的な電子論から明らかにするものです。これらの成果は、磁性と誘電性の融合したマルチフェロイクスに関する基礎物理学の理解を進展させるのみでなく、電圧による磁気異方性の操作に関するスピントロニクス素子の設計においても重要な役割を果たすことが期待されます。
物質をひずませるとスピンの大きさが変わることは磁歪効果、磁気弾性効果として知られています。今回、磁気弾性効果を電子論的な微視的計測と理論計算により、ひずみによる軌道状態の変化を捉えることができたため、今まで現象論的に知られる磁気弾性効果は、実はスピンよりも軌道成分の変化が重要であることが判りました。我々はこれを「軌道弾性効果」と名付けました。この研究成果は、固体物理学の教科書の説明を深化させうる内容であり、薄膜界面のひずみの操作による軌道物性を制御するスピンオービトロニクスの学術の創成に繋がります。
本成果は、2019年5月3日(英国時間午前10時)に、英国科学雑誌Nature Partner Journal「npj Quantum Materials」のオンライン版に掲載されました。  岡林 潤 (東京大学)