【分野】磁気応用
【タイトル】磁気計測を利用した馬尾神経の電気的活動の可視化に成功
【出典】
・S. Ushio, et al., “Visualization of the electrical activity of the cauda equine using a magnetospinography system in healthy subjects”, Clinical Neurophysiology, Vol. 130, pp. 1 – 11, 2019.
【概要】
東京医科歯科大学・牛尾らの研究グループは、生体磁気計測により馬尾神経の電気的活動を可視化する手法を開発した。20~60代の健常な被験者を対象とした実験では、74%の被験者から神経伝導速度を非侵襲的に得ることに成功した。 脊磁計を用いた生体磁気計測による本手法で、非侵襲での腰椎疾患の機能診断が可能となる。
【本文】
 脊髄障害部位の診断にはMRIやX線CTなどの画像診断が用いられている。しかし、複数の脊柱間の狭窄や圧迫病変が見られる場合には障害の正しい部位を画像だけから診断することは難しい。適切な手術や外科的治療法の決定には電気生理学的な検査に基づいた機能的な診断が必要であるが、脊髄は体の深い部分を通っているため、体表の電極によって電気信号を計測することは困難である。
 そこで、東京医科歯科大学・株式会社リコー・金沢工業大学の研究グループはSQUID(超伝導量子干渉素子)センサを用いた脊磁計を開発し、生体磁気計測による脊髄の機能診断を実現した。これまでは主に頚部の障害を対象としてきたが、東京医科歯科大・牛尾らは頚部に比べて深い位置を通る腰部の磁気信号を計測し、馬尾神経の電気的活動を可視化する手法を開発した。
 新たにセンサ-腰部間の距離の短縮や観測面形状の最適化、電気刺激の方法、DSSP法によるアーチファクト除去などが改良され、深部からの磁気信号をより高い信号・雑音比で検出できるようになった。
 22歳から64歳の健常な43名のボランティアを対象として脊磁計を適用し、腓骨神経電気刺激による腰椎馬尾神経の活動にともなう磁場を観測した。また、32名(74%)のデータから伝導速度を得ることに成功した。得られた伝導速度は被験者の年齢とともに減少することがわかった。体重やBMIによっては信号強度が低下し、伝導速度の導出が難しくなるため、高齢者や高BMIな患者に対しては信号源と観測面の距離の短縮やセンサの高感度化、刺激方法のさらなる改良が必要である。一方、本研究で得られた健常者の計測結果が、腰椎の神経根障害の診断基準の確立に役立つことも示唆された。
 本記事執筆の時点(2018年12月)までに刺激法が改良され、健常者に対する伝導速度導出の成功率は100 % に達しているとのことである。脊磁計は、従来困難だった脊髄疾患の非侵襲での機能診断を実現する新しい診断装置として期待される。 (金沢工業大学 小山大介)

腰椎馬尾神経の活動にともなう磁場分布から再構成した仮想電流マップ(左)と波形(右)