162.01

【分野】磁気物理
【タイトル】
アトミックスケールの磁化ダイナミクスシミュレーション技術
【出典】
[1] F L Evans, W J Fan, P Chureemart et al, J. Phys. Condens. Matt. 26, 103202 (2014)
[2] G J Bowden, G B G Stenning and G van der Laan, J. Phys. Condens. Matt. 28, 066001 (2016)
[3] Joint MMM-Intermag 2019
【概要】
York 大学のEvans らは、アトミックスケールの磁気ダイナミクスをシミュレートするために、Landau–Lifshitz–Bloch (LLB) 方程式の形式でアトミックな相互作用の表式に置き換えたシミュレータVAMPIREを公開中。2019 Joint MMM-Intermagではダイポール-ダイポールカップリングを追加したモデルで、レーザー励起からの磁気緩和の計算結果を報告した。
【本文】
York 大学のEvans らは、アトミックスケールの磁気ダイナミクスをシミュレートするために、Landau–Lifshitz–Bloch (LLB) 方程式の形式で、各インタラクションをアトミックな相互作用の表式に置き換えたモデルを開発中である。[1] 初期のモデルは異方性、交換相互作用、そして外部磁場によるゼーマンエナジーのみ考慮されていたが、近年 Bowden らの報告[2] を参考に、ダイポール-ダイポールカップリングを取り入れたようである。原子スケールの磁化ダイナミクスが計算できるようになれば、磁気ドメイン内の微細な磁化構造や、レーザー励起からの高速な緩和計算など、シミュレーションの幅が広がり、磁気物理を理解する助けになると期待できる。
さて、以上のようなモデルに基づいて開発されたシミュレータはVAMPIRE という名称でオープンソースとしてソフト化されており、今年一月に行われた2019 Joint MMM-Intermag では、開発元のYork 大学 より、十億粒子の系に対してレーザー照射で励起した後の磁化緩和過程を12,000 個のプロセッサを動員して計算するという、大規模計算について報告しており、迷図的な磁化構造を示している。(GS-02) さらにGPGPU を用いたソースコード開発も行っているようで、シミュレータとしての高速化、ひいては大規模計算の開発を熱心に行っている様である。他にも、同じくYork 大学からのIrMn3 合金の磁気異方性や磁化緩和のシミュレーション(GB-12) 、Carnegie Mellon 大学からのMTJ 素子の外周部にダメージ領域を仮定した場合のリテンションの計算(CF-05) 等が報告された。
ここ数年で立ち上がってきた技術のため、モデルやシミュレータとして検証すべき点や改良すべき点は残っていようが、興味のある方は一度触ってみると面白いかもしれない。
(東芝メモリ 板井翔吾)

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