ひずみと磁性の相関における新展開

日 時:
2018年8月3日(金) 13:30~17:35

場 所:
中央大学駿河台記念館
参加者:
31名

 磁性材料におけるひずみと磁気特性の関連性およびその応用をテーマとして研究会を開催した。全7件の講演で構成され、ひずみ下での磁気特性の変化やその計測、逆磁歪効果を利用した磁気デバイス応用についての報告がなされた。幅広い分野からの講演であったが、いずれの講演も、最新の研究成果に加えてわかりやすい導入が織り込まれており、専門外の参加者にも興味深く聴講できる構成であり、非常に活発な討論が行われた。

  1. 「コバルトフェライト薄膜のエピタキシャル歪と磁気弾性効果」
    ○柳原英人(筑波大)

     大きな磁気弾性効果を示すことでよく知られているCoフェライトに関して、エピタキシャルひずみを導入することで誘導される磁気異方性について報告された。適切な下地を用いることでNd2Fe14Bにも匹敵する一軸の磁気異方性が発現することが示された。また現象論における磁気弾性効果の取り扱いに加えて、結晶場のひずみを伴ったCoフェライトについてクラスターモデルによる誘導磁気異方性の計算結果と、実験結果を比較することで歪により誘導される磁気異方性エネルギーの上限について議論がされた。

  2. 「Fe-Ga合金単結晶の逆磁歪効果の振動発電エナジーハーベスティングへの応用」
    ○藤枝 俊(東北大)

    身の回りの振動から電気エネルギーを作り出す振動発電エナジーハーベスティングへの応用に向けたFe-Ga合金単結晶の逆磁歪効果の研究が紹介された。前半では、Czochralski法により作製したFe-Ga合金単結晶を搭載した振動発電デバイスは、逆磁歪効果に起因して優れた特性を示すことが述べられた。後半では、優れた特性の発現機構解明に向けたKerr効果顕微鏡を用いた磁区観察の結果が述べられた。Fe-Ga合金単結晶の初期磁区構造の特色およびそれに及ぼす磁場と応力印加の影響が示された。

  3. 「フレキシブル基板上金属磁性薄膜における磁性の機械的制御」
    ○千葉大地(東大)

     金属磁性薄膜の積層構造を用いたひずみセンシング素子では、従来の手法を凌駕する感度を実現できると期待されており、磁化がベクトル量であるという点に着目した、ひずみの大きさではなく方向を検出する素子の開発について報告された。同素子はひずみに鈍感・敏感な2つの磁性層で非磁性金属層を挟んだ巨大磁気抵抗素子であり、フレキシブル基板上に形成され、ひずみに対して敏感な層がひずみ方向に向くため、電気抵抗を介してひずみ方向を検出できることが示された。

  4. 「ベクトルマグネットを用いたXMCDによる磁気異方性計測の研究」
    ○藤森 淳、芝田悟朗(東大)

     強磁性材料における磁気異方性の起源を解明するために、ベクトル型超伝導マグネットを用いたXMCD測定装置を開発し、高速偏光スイッチングが可能なフォトンファクトリーのアンジュレータ・ビームラインBL-16に設置して測定を行った。基板からのひずみ応力に応じて磁気異方性が面内あるいは垂直に変化する強磁性酸化物(La1-xSrxMnO3)薄膜および強い垂直磁気異方性を持つL10型FePt薄膜を対象とした。いずれの場合も、磁気異方性の起源として広く適用されている軌道磁気モーメントの異方性(いわゆるBrunoモデル)では説明できず、(“磁気ダイポール”と呼ばれる量で表される)スピン偏極電子の異方的分布により磁気異方性が生じていることが明らかにされた。

  5. 「応力下における電磁鋼板のベクトル磁気特性計測」
    ○大島弘敬(富士通研)

     応力が印加された電磁鋼板におけるベクトル磁気ヒステリシス特性に関する研究成果が報告された。電磁鋼板はモーターなどの主材料として広く使われており、その損失解析は重要な課題である。講演では、まず電磁鋼板の磁気特性をシミュレーションするための磁気ヒステリシスモデルが報告され、そしてその妥当性や精度を検証するためのベクトル磁気特性計測技術が解説された。圧電アクチュエータによる応力印加機構を用いて得られた応力下のベクトル磁気特性の計測結果は、磁気弾性項を導入した磁気ヒステリシスモデルによって良く再現できることが示された。また、計算と実験の連携に加えて機械学習を活用した設計最適化技術への取り組みが紹介された。

  6. 「MTJを用いた高感度歪検知素子およびスピンMEMSマイクロフォンの開発」
    ○藤 慶彦、東 祥弘、加治志織、増西 桂、永田友彦、湯澤亜希子、
    岡本和晃、馬場祥太郎、小野富男、原 通子(東芝)

     HDD再生ヘッドやMRAMに用いられている磁気トンネル接合(MTJ)素子は、その検知層に磁歪材料を用いることで歪検知素子として機能させることができる。MTJ型歪検知素子の歪感度(ゲージファクター)の向上を目的として、高い磁歪定数を有する軟磁性材料であるアモルファスFe-B合金を検知磁性層に採用したMgO-MTJ素子、およびそれらを用いたマイクロフォンデバイスの特性についての報告がなされた。基板曲げ法によって印加した歪に対する電気抵抗変化の評価から、MEMSデバイスに一般的に用いられる多結晶Siピエゾ効果素子の40を大きく上回る5072のゲージファクターが得られることが示された。このMTJ素子をMEMSダイアフラムと呼ばれる音に対して人の鼓膜のように振動する膜の上に形成してマイクロフォンデバイスが作製され、その動作実証の結果が述べられた。作製したマイクロフォンは高感度・広帯域を両立した特性を示し、今後の産業機器の状態監視などへの応用が期待される。

  7. 「磁性/誘電性ヘテロ界面における磁気-歪み相関と電界効果」
    ○谷山智康1、 岡林 潤21名大、2東大)

     マルチフェロイクへテロ構造を利用した磁性の電界制御の最近の研究動向について紹介された。マルチフェロイクスは2つ以上の強的秩序が共存した物質群であり、磁化と電気分極との間の交差相関に起因して磁性を電界で制御可能な物質群として、大きな注目を集めている。特に、磁性/誘電性へテロ界面に発現する界面マルチフェロイク状態は、強磁性と強誘電性を兼ね備え、多様な材料選択の自由度からその応用展開が期待されている。界面において顕在化するマルチフェロイク状態の中でも特に歪みを介した磁性の電界制御を中心に最近の研究が紹介された。例えば、Pd薄膜における飽和磁化の界面歪み効果、Cu/Ni垂直磁化多層膜における界面歪みを介した磁化配向の電界制御、FeRh合金薄膜における磁気秩序の界面歪み効果等についての詳細が紹介された。

文責:古屋篤史(富士通)