磁気記録用材料の将来と課題について

日 時:
2018年5月18日(金) 10:00 ~ 16:10
場 所:
中央大学駿河台記念館
参加者:
50名

 磁気記録デバイスである、HDD、磁気テープ、MRAM、および磁気記録応用が期待されている、磁壁移動、全光型磁化反転などのトピックに関して、大学、企業から7名の研究者をお招きし、最新の動向やこれからの展開についてご講演をいただいた。

  1. 「希土類遷移金属フェリ磁性体の示す高速磁気現象」
    ○塚本 新(日大)

     フェリ磁性体に超短パルスレーザー光を印加した際の高速磁気現象について講演いただいた。磁気記録応用が期待される磁化反転手法としては、光誘起プリセッショナル・スイッチング、全光型磁化反転がある。前者では、外部磁界を印加した状態でフェリ磁性体にレーザーを照射することにより、磁化補償温度を超え磁化運動量補償温度付近へ加熱する。このとき、正味の磁化と外部磁界の関係が平行から反平行へと変化するため、初期状態に対し磁化反転が起こる。後者では、副格子スピン間の角運動量伝達によって、磁化方向がラッチスイッチする。円偏光レーザーを使用した場合、円二色性のため、試料の磁化方向に対して1つの偏光方向のみで全光磁化反転のしきい値を超えるように調整することができる。これにより、偏光方向を用いて磁化方向を制御できる。

  2. 「電流駆動磁壁移動現象の磁気記録応用の可能性」
    ○小野輝男(京大)

     電流駆動磁壁移動に関する最新の動向について講演いただいた。近年、新たな磁化制御手法として注目されているスピンホール効果を用いて磁壁を駆動する場合、ブロッホ磁壁では注入されるスピンの向きと磁壁内の磁化が平行となるため磁壁を駆動することができない。ネール磁壁では注入されるスピンの向きと磁壁内の磁化が垂直となり、効率よく磁壁移動が可能である。隣り合う磁壁を同じ方向に駆動させるためには、磁壁の磁化の方向を反対にする必要がある。このようなカイラル構造はDzyaloshinskii-Moriya相互作用を用いることで実現できる。フェリ磁性体を用いて、磁化運動量補償点で使用した場合、Walker breakdownが起こらないため磁壁の移動速度を非常に速く(2 km/s)することができる。

  3. 「磁気シフトレジスタ応用を指向した電流誘起磁壁移動現象の研究」
    ○近藤 剛(東芝メモリ)

    磁壁移動を利用した磁気シフトレジスタに関して講演いただいた。磁壁の移動距離は、素子の不均一性、熱擾乱によってばらつく。磁性細線の幅を周期的に変え、ピニングサイトを作ることにより、この磁壁の移動距離ばらつきの問題を抑えることができる。磁気シフトレジストの記録密度を向上させるためには磁性細線を3次元的に配置することが提案されている。このような構造に均一に成膜するためには化学的堆積法を用いて磁性体を形成することが有効である。Pt下地の上に化学的堆積法でCo層を形成し、垂直磁化膜が得られることを実証した。

  4. 「データストレージ用磁気テープの高記録密度化研究」
    ○辻本真志(富士フイルム)

    コールドストレージ用記録デバイスとして、記録密度向上が期待されている磁気テープに関して講演いただいた。バリウムフェライト磁性体の微粒子・配向・表面平滑化技術より、塗布型磁気テープでは最高となる面記録密度123 Gb/in2を実証、容量220 TB/巻の実現可能性を示した。更なる高密度化に向けた磁性材料として粒子体積を大幅に低減させたストロンチウムフェライト粒子の合成に成功した。

  5. 「イプシロン型-酸化鉄の磁気テープへの応用」
    ○大越慎一(東大)

    イプシロン型-酸化鉄の合成方法、磁気特性、及びテープ応用について講演いただいた。酸化鉄(Fe2O3)の結晶相にはガンマ型、アルファ型があるが、3~50 nmのサイズにおいてはイプシロン型が得られる。この材料はバリウムフェライトなどの既存のフェライト磁性材料と比較して約4倍の25 kOeという大きな保磁力を示す。焼成温度によって粒径を制御する合成法を開発した。粒径10 nmにおいても磁気秩序を維持しており、超常磁性限界は7.5 nmであった。イプシロン型-酸化鉄を塗布したテープを作製し、非常にシャープな再生信号ピークを得た。イプシロン型-酸化鉄は次世代のテープ材料としてINSIC(Information Storage Industry Consortium)のロードマップに紹介され、期待されている。

  6. 「熱アシスト磁気記録の課題」
    ○伊藤直人(HGST)

     HDDの基本的な原理、および次世代の記録方式として期待されている熱アシスト磁気記録に関して講演いただいた。熱アシスト磁気記録では、ヘッドにレーザーダイオードが搭載されており、発生したレーザーはヘッドの導波路、近接場光を利用して光のスポットサイズをしぼるニアフィールドトランスデューサーを介してメディアに到達する。このとき、レーザーのパワーのおよそ0.5 %がメディアに到達する。記録パターンは熱勾配によって形成されるため、記録密度向上のためには熱勾配を高くすることが重要である。

  7. 「大容量STT-MRAMの実現に向けたトンネル磁気抵抗素子の開発」
    ○冨田博之(東京エレクトロン)

     MRAMの記録素子であるトンネル磁気抵抗効果素子(MTJ)の構成、300 mmウエハを用いた作製と評価に関して講演いただいた。トンネル膜の品質はMTJ特性にとって非常に重要である。東京エレクトロンでは、トンネル膜のMgOを、Mgをスパッタした後に酸化させるプロセスを用いて作製している。MgOターゲットをRFスパッタする方式と比較して、この方式はパーティクルの問題が少ないという特徴がある。特性としては、130%以上のMR比、面積抵抗2 Ωμm2を実現した。MTJの参照層には、漏れ磁界を低減するために反強磁性結合した2層のCo/Pt膜を用いた、反強磁性結合をもたらす層としてIrを用いることにより、これまで広く使用されているRuと比較して、より強い結合を得ることができた。

文責:首藤浩文(東芝)