「マイクロ波フェライト素子の動向と新左手系材料への期待」

日時:2006年6月27日(火)13:00~17:00
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:40名

講演内容:

  1. 「マイクロ波非可逆素子の現状と課題」
    武田 茂 (Magnontech)

     本研究会開催の動機と目的を述べた後、最近のマイクロ波非可逆素子の技術動向を概観した。また、素子動作の基本となる強磁性共鳴現象について触れ、above resonanceとbelow resonanceの違いについて言及した。次に、最近話題となっている左手系線路がbelow resonance領域における透磁率が負となる現象を利用することから、この領域で生ずる高次モードである静磁波、スピン波について述べた。これらの波が誘起されると透磁率負の状態が維持されない。高次モード発生を抑えるためには、緩和係数αを大きくすればよいが、余り大きくすると負の領域そのものが消えてしまうことなどの注意点を述べた。
     

  2. 「コプレーナ導波路構造を用いたサーキュレータ」
    大城 和宣(山口大)

     コプレーナ導波路はミリ波などで有効な伝送線路であるが、この導波路を直接用いたサーキュレータの報告は少ない。今回、コプレーナY結合部の上下にフェライト板を配し、接合面に垂直に磁界を印加した構造のサーキュレータの設計、試作結果が報告された。試作したサーキュレータの寸法は10mm角であり、その特性は8GHz付近で、挿入損失4.8dB、逆方向損失28dBであった。解析、実験の両面からコプレーナ導波路を用いたサーキュレータの可能性が示された。
     

  3. 「ジャイレータを含む周期構造について」
    大久保賢祐(岡山県立大)

     フェライトに直交した二巻線を施し、これをジャイレータとして動作させたものを5個直列接続し、その伝送特性を解析した。直列接続の方法は直接接続する方法と、直列にコンデンサーを介して接続する方法の二つを検討した。前者の場合、接続後もジャイレータ特性を示すが、伝送特性も右手系に準ずる。後者の場合、低域で左手系に準ずる特性が得られる。後者の状態で、各要素に抵抗を並列に付加し、アイソレータ構成とし、挿入損失が3dB程度、逆方向損失100dB以上得られることが理論的に予測された。これを実験で確かめた結果、挿入損失が17dB、逆方向損失50dBが得られた。定量的には大きな隔たりがあるが、実験結果は理論計算結果と定性的に一致している。
     

  4. 「左手系線路を用いたエッジガイドモードアイソレータ」
    上田 哲也(京都工芸繊維大)

     基板の一部分にフェライトを用いたマイクロストリップ線路において、直列にコンデンサー、並列にインダクタンスをそれぞれ周期的に装荷した左手系線路について述べる。まず、周期数n=4について、HFSSを用いて計算した。その結果、磁界を変化させるとエッジガイドモードの実効透磁率が負の周波数領域を左手系線路の周波数領域に対して変化させることができる。二つの周波数範囲が重なった場合に、挿入損失が7dB程度と大きいが、30dB以上の大きな非可逆性が得られることが示された。これをn=6で実験的に確かめた結果、挿入損失10dB、非可逆性は周波数に依存し変化するが、2GHz~3GHzで30dBが得られた。
     

  5. 「携帯電話用アイソレータの小型化」
    岸本 靖(日立金属)

     携帯電話用アイソレータの小型化の一つの方法として、ガーネット寸法を小さくすることが考えられる。しかし、これを実行すると帯域幅が狭くなるという問題があった。これは、外部インピーダンスを50Ω整合させるために印加磁界が強くなりすぎるためである。印加磁界を一定に保つためには、外部インピーダンスを下げればよい。この点に着目し、LCインピーダンスマッチング回路を付加し、ガーネット周辺のインピーダンスを下げ、小さなガーネットでも十分な帯域幅を確保できる技術を開発した。この技術を用いて、ガーネットサイズを10分の1に小型化しても、実用上十分な帯域幅が得られる可能性を確認した。
     

  6. 「改良ジャイレータ回路を用いた低損失2ポート集中定数型アイソレータ」
    長谷川 隆 (村田製作所)

     これまでの2ポート(二巻線型)アイソレータは、直交した二つの巻線をそれぞれの一端を地導体に他端を入出力端とするいわゆるモトローラ型であった。今回の新2ポートアイソレータは、一つの巻線の一端を入力、他端を出力とする直接結合型である。もう一つの巻線は、最初の巻線と直交して配され一端は地導体、他端は出力に接続される。この構造はジャイレータ回路として動作する。この動作原理の明確化と設計式の導出を行った。また、この回路方式を用いて、携帯電話システムW-CDMA(1920~1980MHz)用にサイズ3.2×3.2×1.5mm3の超小型アイソレータを実現した。また、本アイソレータの特性は、挿入損失0.36dBmax、アイソレーション19.2dBminであり、特に低損失が特徴である。
     

 今回の研究会では、「マイクロ波非可逆素子」について最近国際会議で発表されている日本の研究者方々にお集まりいただき、最新の研究成果の紹介と相互の討論を行った。携帯電話の世界的な普及により、日本で発展した携帯電話用小型アイソレータは、高度なデジタル通信を支えるために不可欠なデバイスとなった。また、これを集積化し小型化するためのLTCCや薄膜、厚膜などのプロセス技術の進歩も見逃せない。磁性材料の左手系線路の研究を含めて、これらの分野は常に日本が先行している。今後も、この分野に多くの研究者の目が向けられ、実用技術だけでなく基礎技術もこれから大いに発展してゆくことを願う次第である。最後に、ご多忙の中、快く講演していただいた講師の方々、ならびに活発なご討論に加わっていただいた参加者の皆様に紙面を借りて感謝したい。

(Magnontech 武田 茂)