第146回研究会報告

「L10型磁性規則合金の基礎とその進展」

日時:2006年2月20日(月) 10:00~16:30
場所:機械振興会館
参加者:38名

講演内容:

  1. 「L10規則合金の結晶学および相転移の熱力学」
    松村 晶(九大)

     Fe-Pt系,Fe-Pd系,Co-Pt系,Cu-Au系などの1:1の組成付近で現れるL10型規則構造の結晶学的な特徴,原子間相互作用とL10構造の形成,規則-不規則1次相転移の定性的記述,さらにツイード組織と双晶組織の形成過程などが,熱力学と速度論を用いた平易なモデルにより概説された.
     

  2. 「Fe-Ni, Fe-Pd, Fe-PtのL10相の相安定性,相平衡,相転移の理論」
    毛利哲雄(北大)

     第一原理計算に基づくFe-Ni系,Fe-Pd系,Fe-Pt系の基底状態における相安定性とクラスター変分法によるL10相の平衡状態図の計算結果が報告された.さらに実空間領域における第一原理フェーズフィールド法とL10相の形成に至る内部組織の発展過程の計算結果が示された.
     

  3. 「L10規則合金の電子構造と磁気構造」
    佐久間昭正(東北大)

     遷移金属の結晶磁気異方性の起源が概説され,局所スピン密度汎関数法の下でのLMTO法によるバンド計算手法を用い,主にL10型FePt合金の大きな磁気モーメントや結晶磁気異方性エネルギーの起源あるいは支配因子について電子論的立場から考察された.
     

  4. 「L10型強磁性合金のシングルバリアント状態と結晶磁気異方性」
    深道和明(東北大)

     機械的な圧縮の印可により得られたシングルバリアント状態のL10型FePt,CoPt,FePdの物性値が報告された.一軸異方性は,従来報告されている薄膜の値よりも約1桁大きな値を示すこと,さらに異方性定数と磁化の温度変化の指数則も従来の報告と異なり大きな値を示すことが明らかにされた.
     

  5. 「L10 FePtナノ構造エピタキシャル薄膜の磁化過程」
    高梨弘毅(東北大)

     薄膜成長過程を利用したボトムアップ手法と微細加工によるトップダウン手法を用いて作製したナノ構造L10型FePtエピタキシャル薄膜の磁化過程が報告された.さらに単磁区粒子から成る島状薄膜は室温で70kOeの保磁力を示すこと,微細加工ドットは磁化容易軸の方向により保磁力のサイズ依存性が異なることが紹介された.
     

  6. 「L10 FePtバルク・薄膜の微細構造と磁気特性」
    宝野和博(物質・材料研究機構)

     L10型FePtバルク合金および薄膜の保磁力におよぼす微細組織の影響,種々のピンニングサイトによる保磁力の制御,Pt/Fe,FePt/Fe,FePt/Fe3Pt積層膜の熱処理によるナノコンポジット磁石,規則化のサイズ依存性,さらにAl2O3/FePt積層構造における界面不規則化と保磁力変化について報告された.

     

  7. 「スプリングマグネットとしてのL10規則合金・薄膜」
    福永博俊(長崎大)

     FePt薄膜の熱処理条件を制御することにより規則相と不規則相から構成される磁気的に多相状態構造にある交換スプリング薄膜磁石が作製され,無配向規則合金の残留磁化の理論値より高い1.05 Tの残留磁化を示すこと,高いスプリングバック率を示すことが報告された.
     

  8. 「記録材料としてのL10規則合金」
    北上 修(東北大)

     ナノビーム電子線回折によるFePt合金単体の規則度に関する定量評価,ならびに異常Hall効果を利用したL10型FePtナノ粒子単体の磁化過程に関する実験結果が示され,将来の超高密度記録材料としてのL10型FePt合金の位置づけと記録媒体の設計について議論された.
     

 今回の研究会では,近年再び研究が活発化しているL10型強磁性合金について,金属学,磁性・磁気,さらに工学材料への展開の観点から講演がなされ,熱の入った議論が行われた.各講演とも基礎的な事項から最近の研究成果まで丁寧にまとめられ,この分野を発展させるに有意義な研究会となった.ご多忙の中,快く講演していただいた講師の皆様,ならびに活発にご討論いただいた参加者に紙面を借りて感謝したい.

(AIT 鈴木淑男)