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会長からの挨拶

高梨弘毅 東北大学/日本磁気学会会長
Koki Takanashi Tohoku University

<略歴>

1986年
東京大学大学院理学系研究科博士課程修了
同 年
東北大学金属材料研究所 助手
1994年
同 助教授
同 年
アレクサンダー・フォン・フンボルト客員研究員として
ドイツ・ユーリヒ研究センターに滞在(~1995年)
2000年
東北大学金属材料研究所 教授(~現在)
2013年
IEEE Magnetics Society Distinguished Lecturer
2014 年
東北大学金属材料研究所 所長(~現在)


 2017年6月より、福永博俊会長の後を引き継ぎ、本学会の会長を務めることになりました。本学会は、日本学術振興会第137委員会を母体として、1977年に「日本応用磁気学会」として発足しました。2007年には「日本磁気学会」と改称し、本年で41年目を迎えます。この歴史ある学会の舵取り役という重責を担うことになり、身が引き締まる思いです。

 私が本学会に入会したのは1987年、本学会が10周年を迎えたときでした。それは私が東京大学物性研究所で大学院を修了し、東北大学金属材料研究所の助手として仙台に赴任した翌年のことであり、以後30年間本学会にお世話になってきました。私の研究者としての歩みは本学会とともにあり、私はまさに本学会に育てられたと感じております。現在はいずれの学会も財政難と会員減少に苦しんでいますが、本学会も例外ではありません。昨年は皆様のご努力で赤字財政は何とか食い止めたものの、相変わらず会員減少には歯止めがかかりません。小手先ではなく、抜本的な対策が必要になっています。この難局を乗り越え、活気ある学会活動を維持・発展させていくことは、私にとって本学会への恩返しであり、使命であると考えております。

 会長に就任するにあたり、思うところをいくつか述べさせていただきます。まず本学会の性格と位置付けについてです。以前、縦糸と横糸という考え方がありました。本学会の会員の多くは、母体となる別の学会にも所属しています。物理学会、応用物理学会、金属学会、電気学会などです。これらの学会を縦糸に喩えるならば、本学会はそこに「磁気」というキーワードで横串を指す、いわば横糸であるというわけです。これがまさしく本学会を特徴付ける本来の性格であり、横糸としての役割が果たせなければ本学会の価値はないと私は考えています。本学会に参加すれば、基礎から応用まで、磁気に関わる情報はほとんどすべて得ることができる、会員がそのように思えるような学会を、初心に返って、常に目指さなければいけません。かつて磁気記録の研究開発が全盛で、本学会参加者の多くが何らかの形で磁気記録に関わっていた時代は、そのようなことをあまり意識しなくても良かったかもしれません。もちろん今も磁気記録は重要な一分野でありますが、磁気記録に依存した体質で学会運営をやっていける時代でないことは、既に皆さんご承知のとおりです。

 現在、磁気物理は物理学会に、ハード・ソフト磁性材料は金属学会に、モーター等の磁気応用は電気学会に、そしてスピントロニクスは応用物理学会に、いわば「母体帰り」のような状況が生じています。それはそれで結構なのだと思います。しかし、スピントロニクスの研究者が磁石の話を聞きたいこともありますし、磁気物理の研究者がデバイスの話を聞きたいこともあります。また、ハード・ソフト磁性材料の研究は、そもそも磁気応用と密接不可分です。磁気学会は、そのような分野横断の場を与えるものでなければいけません。今という時代は、企業も大学も、異分野のことに関心を持って勉強するような余裕を、時間的にも、財政的にも持ちにくくなっているという憂えるべき現実があるのですが、しかし、21世紀の世界が直面する深刻な社会的課題、エネルギーの枯渇や環境の悪化、安全・安心空間の確保や、長寿社会に対応する先進医療など、これらの問題解決に、「分野横断型の磁気研究」が大きな役割を果たすことは、磁気に関わる者であれば誰しも疑う余地はないはずです。本学会は、磁気という観点から、現代が抱える社会的課題の解決に貢献する学会であって欲しいと願っています。

 本学会についてもう一つ思うことは、民間企業、言い換えれば産業界との連携です。私が若い頃は、本学会での発表は、半数以上が企業研究者からであったと記憶しています。しかし、現在は圧倒的多数が大学からの発表になってしまいました。物理学会のような基礎研究のコミュニティーであれば良いですが、本学会がこれでは活性化できません。しかし、産業界にとって磁気は不要になったということではけっしてなく、前述の社会的課題の解決は、産業界にとって大きなビジネスチャンスであり、そのための磁気に関わる研究・開発には、大きな関心が寄せられています。新しい動きを察知し、それらをいち早く本学会に取り込んでいく努力が必要だと思います。

 最後に申し上げておきたいのは、学会はあくまで会員のためにあるもので、学会のための学会になってはいけない、ということです。具体的には、一例として、Journal of the Magnetics Society of Japan(JMSJ)の問題があります。今年度からは、多くの会員の要望により、和文論文を含む論文特集号(Transactions of the Magnetics Society of Japan Special Issues: TMSJ)を発行しています。一方で、英文誌としてのJMSJはそのまま継続させ、Web of Science(WoS)への登録とImpact factor(IF)の向上を目指しています。この問題がいささか複雑なのは、WoSへの登録とIFの向上は学会にとって悲願であり、会員にとっても必ず利益があるはずなのですが、一方でそのためには会員の協力が不可欠であり、結果として会員に負担を強いかねない、ということです。会員の利益のためにはどうするべきなのか、真剣に検討する必要があると思っています。

 多くの問題を抱えながらも、会員の皆様方のご理解とご協力のもとで一つ一つを解決し、本学会が磁気を通して基礎と応用を結ぶ重要な交流の場として発展していくよう、努力する所存です。何とぞよろしくお願い申し上げます。