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日本磁気学会 第203回研究会報告

「大型プロジェクトによる磁気・スピン新機能デバイス研究開発の最前線」

日 時:
2015年7月24日(金)9:30~17:50, 2015年7月25日(土)9:30~15:30
場 所:
日本大学理工学部駿河台キャンパス1号館
参加者:
25日74名,26日32名(28名は両日参加)

磁気・スピンを活用する最先端の研究を,大型プロジェクトを牽引している研究者11名に, 2日間に亘って講演して頂いた.日本におけるナノテクノロジーや材料研究の位置づけから,新しい物理現象や学理の構築,超低消費電力電子デバイス技術,高感度磁気検出デバイス,高信頼性技術まで幅広く興味深い講演に,非常に活発な議論・討論が行われた.初日講演後の研究交流会においても,異分野間での意見交換が活発に行われ,講演者にとっても有益な会となった.各講演の内容は以下の通りである.

7月24日

  1. 「挨拶及び企画説明」
    ○中村志保(東芝)

    磁気分野の発展の重要性を互いに認知しさらに活性化するために,大型プロジェクトを結集した研究会を企画したことの説明があった.産業と密接に関わりのあるプロジェクトを中心に,学術的要素の観点からもとりあげていること,スピンに関することを中心に,関連する技術を広く取り上げており,次回には,磁石・モータ関係も行いたいことが説明された.

  2. 「我が国の科学技術の現状分析と材料科学研究戦略」
    ○中山智弘(JST)

    広い視野から日本における科学技術の現状分析と,元素戦略のプロジェクトの開始から今後の動向までの説明があった.米国,欧州,中国,韓国等と比較した研究開発投資額に対するGDPの評価や,国内研究のライフサイエンスなど他分野と比較したナノテクノロジーや材料分野の位置づけなどが客観的に示された.研究者は自分の分野だけの説明ではなく,広い視野で説明することが大切だというメッセージは,聴講していた研究者に反響があった.

  3. 【科学研究費補助金 新学術領域】 ナノスピン変換科学
    「『ナノスピン変換科学』で目指すもの」

    ○大谷義近(東大)

    ナノスピン変換科学の領域が,角運動量保存則に基づく電気,光学,音響,振動,熱の相互変換の総称であるスピン変換について,近年発見された多くの新現象を中心に,実験と理論の両面から統一的に理解し,新しい学術領域を創生することであることが報告された. スピンホール効果,逆スピンホール効果,スピンゼーベック効果,スピン注入磁化反転など,興味深い現象や最新の結果が議論された.

  4. 【ERATO】 スピン量子整流プロジェクト
    「スピンと角運動量の新しい使い方」

    ○齊藤英治(東北大)

    ワットの蒸気機関とその回転機構を例に,スピンの歳差運動が一方向に限定されているため,等方的な熱現象からスピンを整流することが可能であることがわかりやすく説明された.熱からのスピン流生成方法として,スピンゼーベック効果が説明され,伝導電子のない絶縁材料においてもスピン流を伝搬可能であり,有用であることが報告された.ナノ領域で発見されたこれらの現象は,本質的に宇宙物理にもつながる可能性があると報告され,議論を呼んだ.

  5. 【ImPACT】 無充電で長期間使用できる究極のエコIT機器の実現
    「佐橋ImPACTの紹介,磁化の電圧制御実用化への挑戦」

    ○佐橋政司(東北大)

    ImPACTの体系が選出されたプログラムマネジャーが組織する複数の大型プロジェクトを有するプログラムであること,本プログラムでは,IT機器の消費電力の根本からの低減に挑戦するプログラムであることの説明があった.不揮発性論理集積回路,電圧トルクMRAM等のプロジェクトの紹介と,佐橋氏がプロジェクトリーダを務める,電圧印加で磁気記録を行う,交差相関電圧書き込み磁気記録プロジェクトについて,詳細が報告された.

  6. 【S-イノベ】 3次元磁気記録新ストレージアーキテクチャのための技術開発
    「磁気共鳴を用いた3次元磁気記録の記録再生実証」

    ○佐藤利江(東芝)

    スピントルク発振素子を用いて選択的磁気共鳴現象を利用する3次元磁気記録方式が報告された.強磁性共鳴周波数の異なる二層の記録媒体の作製から,強磁性共鳴周波数の差異の検出まで,一連の原理検証実験が報告され,新方式を用いる3次元記録の可能性が示された.

  7. 【SIP】 コンクリート内部の鉄筋腐食検査装置の開発
    「音響誘起電磁法とその応用 —新しい非侵襲検査:人体からインフラまで—」
     

    ○生嶋健司(東京農工大)

    物質の内部透過性が高いため無侵襲検査方法として広く利用されている超音波計測を用いて,電気・磁気特性を画像化する計測手法が説明された.超音波により励起される電磁場である音響誘起電磁場を検出することで,非磁性金属中に含まれる強磁性体を画像検出可能であること,コンクリート等の建築材における腐食評価が可能であることが報告された.

  8. 【S-イノベ】 トンネル磁気抵抗素子を用いた心磁図および脳磁図と核磁気共鳴像の室温同時測定装置の開発
    「強磁性トンネル接合を用いた高感度磁場センサの開発と展望」

    ○安藤康夫(東北大)

    強磁性トンネル接合を用いた生体磁場検出センサの開発報告があった.SQUIDを用いて計測されている心磁図をトンネル磁気抵抗(TMR)素子を用いて計測するメリットが説明され,今回開発したTMR素子を用いて開発したセンサで心磁図を検出したことが報告された.薄膜の特性改善だけでなく,実際にモジュールを作製して示したことは聴衆に強いインパクトを与えた.

7月25日

  1. 【SICORP】 イリジウムを代替するホイスラー合金
    「希少金属フリー反強磁性ホイスラー合金薄膜の作製と評価」

    ○高梨弘毅1, 廣畑貴文2, 窪田崇秀11東北大,2ヨーク大)

    HDDの磁気ヘッドのピン層固定用に用いられている反強磁性Ir-Mn合金は,地球上で最も存在率の低い元素とされるIrを用いていることから,希少元素を用いない反強磁性材料として,ホイスラー合金の有望性が示された.ホイスラー反強磁性合金Ni2MnAl薄膜を良好にエピタキシャル成長し,Feやホイスラー強磁性合金Co2MnSiを積層した交換磁気異方性を観測すること,さらに室温以上の高いネール点を有するホイスラー反強磁性材料を開発することが報告された.

  2. 【MEXTイノベーション創出を支える情報基盤強化のための新技術開発】
    高機能高可用性情報ストレージ基盤技術の開発
    「情報ストレージの大容量化と高可用性情報ストレージ基盤技術の開発」

    ○村岡裕明1, 中村隆喜1, 宗形 聡21東北大,2日立ソリューションズ東日本)

    RAIDを用いたHDDのバックアップシステムは,津波等の広範に亘る地域の災害においては,まったく有効でないことが示され,高い可用性を有するストレージシステム構築技術についての報告があった.お薬手帳のシステムを例に,複数の拠点ストレージにデータを複製する実証実験を,大学内のネットワークとインターネットを用いて行った結果が報告された.磁気特性に関わることだけでなく,本講演のようなネットワークを含む情報ストレージに関して学術講演会等で議論して欲しいという希望の意見が挙がった.

  3. 【S-イノベ】 高温超伝導SQUIDを用いた先端バイオ・非破壊センシング技術の開発
    「磁気マーカーと高感度磁気センサを用いたバイオセンシングシステムの開発」

    ○圓福敬二(九大)

    磁気マーカーと高温超伝導SQUID磁気センサを用いたバイオセンシングが報告された.ポリマーで被覆した磁気ナノ粒子を磁気マーカーとして検査抗体を固定化し,これと抗原が結合することで,非破壊センシングが可能となる.時間と手間のかかる磁気マーカー洗浄工程を大幅に見直し時間短縮可能な手法が報告された.また,体内診断用のpTオーダーの磁気マーカーの磁界を体外から検出することを想定した高空間分解能化の検討等が報告された.

  4. 【NEDOノーマリーオフコンピューティング基盤技術開発】
    「IoTシステムの低電力化をめざすノーマリーオフ・コンピューティング」

    ○中田 尚(東大)

    デバイス技術単体では実現できないレベルの省エネルギー化を,不揮発RAMと,システムの電力を制御する組込みソフトウェアの制御方式を組み合わせることで,センサやノードのトータルな動作で実現することを目指していることが報告された.人の数よりも圧倒的に多いセンサノードを管理し,もののインターネット(IoT)システム全体を自律的に省エネルギー化するための,アーキテクチャやMRAMの仕様が説明された.

  5. 【MEXTイノベーション創出を支える情報基盤強化のための新技術開発】
    耐災害性に優れた安心・安全社会のためのスピントロニクス材料・デバイス基盤技術の研究開発
    「社会の耐災害性を高めるスピントロニクスによる不揮発性ワーキングメモリ技術と,そのシステム応用」

    ○遠藤哲郎(東北大)

    災害時に電源供給が途絶してワーキングメモリのデータが消失するため,不揮発性ワーキングメモリを用いる耐災害性の向上と低消費電力化が必要であることが報告された.大容量ワーキングメモリのDRAMを代替する二端子垂直磁化MTJ および高速動作ワーキングメモリのSRAMを代替する三端子磁壁移動素子について,着実に必要となる仕様を満たしてきている実験データ等が示された.耐放射線に対しても優れ,300mmウェハプロセスにおいてこれらの技術を確立したことが報告され,近い未来にMRAMが広く普及する予感が感じられた.

文責:芦澤好人(日大),落合隆夫(東芝),介川裕章(物材機構),三俣千春(物材機構)