日本磁気学会 第206回研究会報告

「発電用電子・磁気材料の現状と今後の展望」

日 時:
2016年1月29日(金) 13:00~16:45
場 所:
中央大学駿河台記念館
参加者:
34名

 地球温暖化の抑制と温室効果ガス排出量を削減するために化石資源に代わるエネルギー源の有効活用の必要性が高まっている。中でも、近年、環境からの微小なエネルギーを電力に変換する技術の研究が精力的に行われている。この研究会では振動発電、熱電変換、磁気冷凍に関連する最新の技術動向が報告され、活発な質疑応答がなされた。

  1. 「エナジーハーベスティング技術の現状と将来」
    ○竹内敬治(NTTデータ経営研究所)

     近年の低消費電力技術の進歩により、エナジーハーベスティング技術よって発電されたW~mW程度の電力で動作する機器が増え、利用用途が広がってきたこと、IoT(Internet of Things) やトリリオンセンサなどへの関心の高まりにより無給電センサを実現する技術としてエナジーハーベスティングへの期待が高まっている。ここ数年のエナジーハーベスティング技術の概要と進展、および今後の動向が解説された。

  2. 「磁歪式振動発電を用いたバッテリーフリーIoTの実用化展開」
    ○上野敏幸(金沢大)

     振動発電は電池不要なIoTを実現するコア技術であること、磁歪素子(鉄ガリウム合金)を利用した振動発電技術について、発電原理と発電デバイス構造、従来技術に対する優位性、利用分野と応用等を試作デバイスによる実演を交えて解説された。

  3. 「積層同時焼成磁気回路を用いたMEMSマイクロエアタービンの開発」
    ○内木場 文男(日大)

     MEMSエアタービンと積層セラミック磁気回路を用いた電磁誘導式MEMSエアタービン発電機について報告された。外径寸法3.6 mm×3.4 mm×3.5 mmのエアタービン発電機を製作し、0.28 MPaの圧搾空気を用い58,000 rpmの回転が得られ、20 の負荷抵抗に接続し最大出力電力1.92 VAであることが示された。

  4. 「エレクトレット振動発電器のマーケット調査」
    ○諸口 登(小西安)

     一度チャージされた電荷を半永久的に保持する特性をもつエレクトレット材料用いた静電誘導方式振動発電器(エレクトレット振動発電器)の構造が説明され、外径寸法20 mm×20 mm×4 mm、質量3.7 gのデバイスで約100 Wの出力が得られ無線センサモジュールを十分に駆動できるため、産業機器や社会インフラのモニタリングシステムに活用できる可能性が報告された。

  5. 「異常ネルンスト効果を利用した環境発電素子のための磁性材料開発とその展望」
    ○桜庭裕弥(物材機構)

     異常ネルンスト効果発電に用いた場合、熱流方向に対して電界が直交して現れるため、熱源に対して磁性線を這わせるだけで磁性線の長さに比例した電圧出力が得られること、異常ネルンスト係数Qsの異なる磁性材料を面内方向に直列させる簡便な構造で電圧を増大させることができ、大面積熱源への応用が容易であることが解説された。加えて、ホイスラー合金材料では合金組成に依存した電子状態の制御によりネルンスト電圧を増強できる実験結果が報告された。

  6. 「磁気と熱のエネルギー変換機能磁性材料とその応用」
    ○斉藤明子(東芝)

     磁気冷凍の常温域応用を目指してAMR(Active Magnetic Regenerator)サイクルの原理試験器の開発、ならびにこれを用いて室温域で大きな磁気熱量効果を示すGd合金およびLa(Fe,Si)13系化合物の球状粒子の冷凍特性を調べ、La(Fe,Si)13系化合物では温度生成は不得手だが熱負荷耐性に優れることが報告された。キュリー温度の異なる材料系を積層することで生成温度差を拡大でき、材料の比熱や運転周波数を大きくすることで出力向上が図れるため用途に合わせた適正設計が重要になることが示された。

文責:東 大地(日立金属)、小山恵史(大同特殊鋼)、関 剛斎(東北大)