124.01

分野:
磁性材料
タイトル:
永久磁石の磁化反転における熱活性化過程のシミュレーション
出典:

1) S. Bance, J. Fischbacher, and T. Schrefl, “Thermally activated coercivity in core-shell permanent magnets,” J. Appl. Phys. 117 (2015) 17A733
2) S. Bance, J. Fischbacher, A. Kocacs, H. Oezelt, F. Reicherl, and T. Schrefl, "Thermal Activation in Permanent Magnets,” JOM 67 (2015); DOI: 10.1007/s11837-015-1415-7

概要:
 ザンクトペルテン応用科学大学研究員のSimon Bance博士らは孤立したハード磁性粒子の磁化反転過程におけるエネルギー変化をマイクロマグネティックスシミュレーション計算により求め、磁化反転に対するエネルギーバリアが熱エネルギーにより乗り越えられる磁界を保磁力とするアプローチで保磁力の温度依存性および印加磁界角度依存性を議論した。
本文:
 

ザンクトペルテン応用科学大学のSimon Banceらはマイクロマグネティックスシミュレーションからエネルギー障壁を求めて熱エネルギーと比較することによる磁化反転過程における熱活性化過程の現象論的取扱い方法を提案した。彼らの手法は、有限要素マイクロマグネティックスシミュレーションを用いてハード磁性材料の減磁曲線を(熱活性化を取り入れずに)計算し、その際の保磁力を熱活性化なしの場合の保磁力(H0)とみなす第一ステップと、H0より絶対値の小さな磁界(Hi)が印加された場合の磁化状態(Mi)と磁化反転後の磁化状態(Mf)とをつなぐ磁化状態の最小エネルギー経路を計算し磁化反転に必要なエネルギー障壁を最小エネルギー経路における最高エネルギー状態と初期磁化状態(Mi)のエネルギー差と定義し磁界Hiの関数として求める第二ステップ、および、その結果得られたエネルギー障壁と印加磁界の関係からエネルギー障壁が熱エネルギー25kBTと等しくなる磁界を温度Tにおける保磁力とみなす第三ステップからなる、熱活性化過程を含む場合の保磁力の計算手法である。熱活性化過程を磁石の磁化曲線測定時間で乗り越えられるとされるバリア高さ25kBTに一律に押し込める現象論であるが、Banceらは本手法を表面にDy濃化シェル(2nm)を付けた径50nmの正12面体Nd2Fe14B粒子における保磁力の温度依存性、および、角部にソフト磁性の欠陥を仕込んだ100nm立方のNd2Fe14B粒子における保磁力の温度依存性と印加磁界の角度依存性の解析に適用し、450Kでは物性値の温度変化の他に熱活性化による保磁力低下がH0の25%に及ぶことなどを議論し、一定の見通しの良い描像を与えることに成功している。本手法が孤立粒子のような単純な系に適用可能性が限られるのかについては言及されていないが、モデルとして単純化できる可能性のある薄膜試料等に対して磁気粘性測定などから求められる活性化エネルギー(例えば、R. Goto, S. Okamoto, N. Kikuchi, and O. Kitakami, “Energy barrier analysis of Nd-Fe-B thin films”, J. Appl. Phys. Lett. 117 (2015) 17B514.)と材料組織との関係づける際の一手法として期待される。

(国立研究開発法人 物質・材料研究機構 元素戦略磁性材料研究拠点 広沢 哲)