124.02

分野:
磁性材料
タイトル:
確率的ノイズを用いたLLG方程式による非一様スピン系の熱平衡状態の実現と動的特性
出典:

M. Nishino and S. Miyashita, “Realization of the thermal equilibrium in inhomogeneous magnetic systems by the Landau-Lifshitz-Gilbert equation with stochastic noise, and its dynamical aspects”, Phys. Rev. B 91 (2015) 134411.

概要:
 元素戦略磁性材料研究拠点に所属する物質・材料研究機構の西野と東京大学の宮下は、スピンの大きさが非一様な系において、温度の効果を統計的ノイズ磁界として取り入れたランダウ・リフシッツ・ギルバート(LLG)方程式の定常状態が正しく熱平衡状態を与えるようなパラメータの条件と、その条件下でのパラメータの取り方の相違による緩和過程の違いについて調べた。
本文:
 ランダウ・リフシッツ・ギルバート(LLG)方程式を用い、温度の効果をランダムノイズ磁界として取り入れた原子描像マイクロマグネティックス計算を非一様性のあるスピン系に適用するアルゴリズムの開発が西野と宮下によりなされ、温度効果を取り入れたLLG計算の定常状態が高精度なモンテカルロシミュレーションで得た熱平衡状態の結果と広範な温度領域において一致することが検証された。西野らが取り扱った課題は、温度効果をランダムノイズとして取り入れる際に、スピンの大きさが異なる非一様な物質の各スピンにノイズの振幅をどのように割り当てれば良いかと問題であり、彼らはスピンの大きさが異なる格子模型を対象にしてランダム磁界を静磁界に加えた場合に、熱平衡状態が正しく記述されるための条件について検討した。このような格子模型は界面近傍など原子毎に磁気モーメント、異方性エネルギーや交換結合が異なる非一様な構造における磁化反転挙動を求める際に自然に適用できると考えられる。熱平衡状態の計算はモンテカルロシミュレーションにより行い、LLGシミュレーションの定常状態がこれと一致するかが検討された。検討の結果、任意の温度Tにある非一様なスピン系に対しては、ノイズの強さと磁化の積の緩和パラメータに対する比が一定になるように、個々のスピンの異なる磁化ごとに振幅の大きさが異なるノイズを割り当てるか、異なる緩和パラメータを割りあてるかのいずれの選択肢を採っても温度Tの熱平衡状態が得られることが示された。しかし、緩和過程のダイナミクスはこれら二つの場合で大きく異なり、温度依存性やスピンの大きさへの依存性が違ってくることが示された。これらの成果が第一原理計算による界面などの非一様構造での磁化反転挙動の計算とその粗視化手法の研究に役立つことが期待される。

(国立研究開発法人 物質・材料研究機構 元素戦略磁性材料研究拠点 広沢 哲)

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