214.01

214.01
【分野】
磁気物理

【タイトル】
隠された磁気を超音波で診断
-高速磁気メモリ開発に向けた材料研究の新手法-

【出典】
・理化学研究所(プレスリリース2023年)
URL: https://www.riken.jp/press/2023/20231109_1/index.html
・Thomas P. Lyons, Jorge Puebla, Kei Yamamoto, Russell S. Deacon, Yunyoung Hwang, Koji Ishibashi, Sadamichi Maekawa, and Yoshichika Otani
“Acoustically driven magnon-phonon coupling in a layered antiferromagnet”
Physical Review Letters 131, 196701 (2023)
DOI:10.1103/PhysRevLett.131.196701

【概要】
理化学研究所、東京大学、日本原子力研究開発機構の共同研究グループは、反強磁性体の性質を超音波を用いて詳細に調べることができることを実証した。反強磁性体に対して適切な測定条件を整えることによって、微弱な超音波が反強磁性磁化の応答を増幅する現象「反強磁性共鳴」を引き起こす。この共鳴には反強磁性体の特性に関する情報が豊富に含まれているものの、通常の磁場を使った方法では測定が難しく反強磁性の実験研究は特定の材料を除いてあまり進んでいなかった。今回、共同研究グループは、層状構造を持ち反強磁性を示す三塩化クロム(CrCl3)の剥片を基板上に配置し、基板表面を伝わる超音波(表面音波)の透過率を測定した。その結果、磁場に依存しない超音波により反強磁性共鳴の観測に初めて成功し、その詳細な性質を明らかにした。

【本文】
反強磁性体は外部磁場が生じず、またスピン歳差運動の周波数が強磁性体に比べて桁違いに高いため、メモリ素子に使用することで記録密度の向上と高速化が可能になる。しかしながら、それらの特徴ゆえにマイクロ波、SQUID、磁気光学カー効果のような従来の計測に対して鈍感であるという課題がある。そこで本共同研究グループは、超音波として固体表面に沿って表面弾性波(SAW)を用いて反強磁性体の物性を測定することにした。圧電体であるニオブ酸リチウム基板上に一組のすだれ状電極を配置し、電極間に層状結晶反強磁性体CrCl3の剥片を置きSAWを発生させる構造を作製。その透過波を電気信号として検出できるようにすることでSAWによって生じたマグノン-フォノン相互作用を検出した。また透過率の磁場依存性から共鳴パターンを計測することで、CrCl3の共鳴パターンが4.2Kから温度上昇と共に変化し、反強磁性転移温度(ネール点)に近い14Kでパターンが消失することが確認された。CrCl3をはじめとする反強磁性体の共鳴現象は、従来、振動する磁場を用いて測定されてきたが、マクロには磁化を持たない反強磁性体の特徴によってさまざまな制約を受けるため、強磁性体の場合と比較して得られる情報が非常に限られていた。一方、今回の研究で用いた音響共鳴手法では、反強磁性体においても強磁性体の場合と同等の測定精度や情報量を得ることができることが確認できた。本研究成果は、磁気メモリの高記録密度化および動作高速化や高周波磁場の検知を可能にするとして注目されている反強磁性材料の新しい物性測定手法を提供し、今後その幅広い利用が期待される。
(東京大学 谷内敏之)

Figure 1 Structure of SAW device with an antiferromagnetic CrCl3 flake

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


磁性材料

前の記事

213.01
スピントロニクス

次の記事

215.01