212.02

【分野】スピントロニクス

【タイトル】量子アニーリングを活用して不規則系酸化物の最適原子配列の高効率な探索を実証

【出典】Kenji Nawa, Tsuyoshi Suzuki, Keisuke Masuda, Shu Tanaka, and Yoshio Miura,
“Quantum Annealing Optimization Method for the Design of Barrier Materials in Magnetic Tunnel Junctions”, Phys. Rev. Appl. 20, 024044 (2023), Editors’ Suggestion.
https://doi.org/10.1103/PhysRevApplied.20.024044

【概要】三重大学、TDK株式会社、慶應義塾大学、物質・材料研究機構で構成される研究グループは、量子アニーリングを組み込んだマテリアルズ・インフォマティクス手法を開発し、不規則スピネル酸化物においてその有用性を実証した。今後、様々な材料探索に適用することで、効率的な機能材料開発の進展が期待される。

【本文】
スピントロニクス分野において、強磁性体/絶縁体バリア/強磁性体の構造をもつ磁気トンネル接合(MTJ)は磁気メモリや磁気センサなどのデバイス性能を決定する重要な基本素子である。MTJには原子が不規則に配列した多元系材料が用いられるが、優れたMTJ性能の実現には、原子組成比や酸化状態等を適切に制御することが求められる。最近では、機械学習を活用した材料探索手法であるマテリアルズ・インフォマティクスが応用されているが、材料の候補数が爆発的に増大する高次元な探索空間においては、組合せ最適化問題に特化した量子アニーリングが有効とされている。しかし、磁性材料系に対する量子アニーリングの有用性は未解明であった。
三重大学の名和憲嗣助教、TDK株式会社の鈴木健司氏、慶應義塾大学の田中宗准教授、物質・材料研究機構の増田啓介主任研究員、三浦良雄グループリーダーの研究グループは、量子アニーリングと機械学習、第一原理計算を組み合わせた材料探索の計算手法を開発し、不規則スピネル酸化物MgGa2O4を絶縁体バリアとするMTJを対象に、種々の物性に対して最適なMgとGaのカチオン配列の探索を行った(図a-b)。計算の結果、熱力学的に安定となるカチオン配列の最適化では、本手法(図cのFM+QA)が探索するために要した計算構造数は、一般的な機械学習であるベイズ最適化(BO)と比較して約半分に、高いトンネル磁気抵抗比を示すカチオン配列の最適化では約1/5まで削減した(図c)。一方、低い素子抵抗(RA)のカチオン配列の最適化ではFM+QAはBOより劣る結果となり、これは、本手法にとって不得意な最適化問題の一つである可能性を示唆している。今後、不規則系だけでなく原子種組み合わせや組成比、原子欠陥などの様々な自由度に対する最適化問題に応用されることで、磁性材料探索における量子アニーリングの有用性が示されるとともに、スピントロニクスデバイスの開発が大きく加速されることが期待される。
(NIMS 増田啓介)


【図】(a) The MTJ structure of Fe/MgGa2O4/Fe where Mg and Ga cations are disordering at octahedral sites in the tunnel barrier (orange circles). (b) Calculation flow of quantum annealing, machine learning (factorization machine), and density-functional theory calculations. (c) Number of calculated structures required to obtain the optimal cation configuration for total energy (∆ETotal), TMR, and RA with the comparison of FM+QA, FM+SA (simulated annealing), BO, and RS (random search). [(a), (b), and (c) reproduced from Phys. Rev. Appl. 20, 024044 (2023) with permission from American Physical Society]

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