112.01

分野:
磁気物理
タイトル:
3d遷移金属単一原子の磁気異方性エネルギーの最大化
出典:
“Reaching the magnetic anisotropy limit of a 3d metal atom”
I. G. Rau, S. Baumann, S. Rusponi, F. Donati, S. Stepanow, L. Gragnaniello, J. Dreiser, C. Piamonteze, F. Nolting, S. Gangopadhyay, O. R. Albertini, R. M. Macfarlane, C. P. Lutz, B. A. Jones, P. Gambardella, A. J. Heinrich, H. Brune, Science, 344, 988 (2014).
 
 
概要:
 MgO基板上に吸着した遷移金属Co単一原子の磁気異方性やスピン緩和時間を極低温走査トンネル顕微鏡および放射光分光法(X線吸収分光、X線磁気円二色性)を用いて計測した。Co単一原子は遷移金属単一原子として最大の磁気異方性エネルギー(約60 meV)を示し、スピン緩和時間もマイクロ秒とこれまでに報告されている遷移金属単一原子のスピン緩和時間(フェムト秒〜ナノ秒)に比べ、大幅に増大した。得られた結果はCo単一原子が持つ巨大軌道磁気モーメントの存在により説明できる。
 
 
本文:
 高磁気異方性を示すナノ磁石の開発は次世代超小型磁気デバイス開発のために必要不可欠である。遷移金属ナノ磁石の磁気異方性を向上させる方策の一つとして、MgO等の金属酸化物の酸素2p軌道と遷移金属の3d軌道間の混成を利用することが知られている。IBMアルマデン研究所(米)のAndreas J. Henrichらの研究チームはAg(100)基板上のMgO単層膜にCo単一原子を吸着させ、その磁気異方性とスピン緩和時間を極低温走査トンネル顕微鏡(STM)および放射光を用いたX線吸収分光(XAS)、X線磁気円二色性(XMCD)により観測した。Co単一原子の磁気異方性についてはまず、極低温STMを用いた非弾性トンネル分光(IETS)測定が行われた。IETS測定ではSTM探針−試料間に流れるトンネル電子の非弾性トンネル過程に寄与する励起現象を観測できる。結果、磁気異方性に比例するスピン−フリップ励起が微分コンダクタンス中にステップとして約60 meVに観測された。外部磁場印加によりゼーマン分裂に起因するステップの分裂が観測されたことから磁性起源であることが確かめられた。この励起は基底状態から第一励起状態へのスピン励起に相当する。見積もられた磁気異方性エネルギーの値はXAS, XMCD測定から得られた値と良い一致を示し、さらに巨大磁気異方性の起源は軌道磁気モーメントの大部分が消失していないためであることがわかった。Co単一原子のスピン緩和時間はスピン偏極STMを用いたポンプ−プローブ測定により見積もられた。これまでに報告されている遷移金属単一原子のスピン緩和時間(フェムト秒〜ナノ秒)に比べ、約200マイクロ秒と大幅にスピン緩和時間が増大していることが明らかとなった。スピン緩和時間増大の理由として、Co単一原子はOオントップサイトに吸着し、C4vの対称性をもつため軌道磁気モーメントが保持されており、さらにMgO単層膜がAg(100)基板中の伝導電子からの影響を減少させているためと考えられる。

(東大物性研 宮町俊生)

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