136.02

136.02
【分野】スピンエレクトロニクス

【タイトル】CoFe多結晶薄膜のダンピング定数に関する実験・理論的研究

【出典】
Nature Physics, doi:10.1038/nphys3770
Ultra-low magnetic damping of a metallic ferromagnet

【概要】
アメリカ国立標準技術研究所とドイツレーゲンスブルク大学のグループは、組成比が異なるCoFe多結晶薄膜を作製し、金属強磁性薄膜としては非常に低いダンピング定数(Co25Fe75で0.0005)を報告した。また、ダンピング定数の組成依存性は、第1原理計算で得られるフェルミエネルギーでの状態密度の組成依存性とよく対応していることを報告した。

【本文】
ダンピング定数は、磁化の動的挙動を決める因子の一つであり、近年ではスピンオービトロニクスやマグノニクス応用においてデバイス特性を決める重要な磁気特性の一つであるため、理論・実験の両面から盛んに研究が行われている。これまで、それらの応用研究の多くでは、薄膜でも非常に低いダンピング定数を示すイットリウム鉄ガーネット(YIG)が用いられてきた。しかしながら、実際の応用では、磁性体をCMOSと混載する必要があるために、金属の磁性薄膜を用いる必要がある。最近になり、第1原理計算により金属磁性体の代表格であるFeやCoでも小さなダンピング定数を実現できることが示され、今回、著者らはCoFe合金薄膜のダンピング定数を調べた。
スパッタリング法により、シード層と保護層にCu(3 nm)/Ta(3 nm)を用いて、組成が異なるCoFe多結晶薄膜を作製し、ネットワークアナライザーを用いた強磁性共鳴法によりダンピング定数を評価した。測定結果から、ダンピング定数を決める際には、スピンポンピングによる寄与と、強磁性共鳴中のCoFe薄膜の磁化から発生する交流磁界によりウェーブガイド中に生じた渦電流による寄与を差し引いてCoFe多結晶薄膜の本質的なダンピング定数を決定している。CoFe多結晶薄膜のダンピング定数は、Co組成の増加に伴い一度減少し、Co25at.%組成で最小値を示した後、Co組成の増加に伴い単調に増加する。著者らは、CoFe薄膜のダンピング定数の起源が、バンド内遷移に起因したものであると考えており、ダンピング定数はフェルミエネルギーでの状態密度に比例することが予測される。そこで著者らは、第1原理計算によりフェルミエネルギーでの状態密度のCoFe組成依存性を比較した結果、ダンピング定数とフェルミエネルギーでの状態密度のCoFe組成依存性はよく対応していることを見出している。
以上のことから、今回の報告はダンピング定数を決める物理を理解するための大きな前進であり、ここで得られた知見を基に低ダンピング定数を有する金属材料開発が前進し、最終的にはデバイス特性の向上につながるものと期待される。

(東北大学 佐藤英夫)

磁性材料

前の記事

136.01
磁気記録

次の記事

137.01