分野:
ナノ構造
タイトル:
巨大磁気モーメントを持つシアノ基架橋Fe42カゴ状磁性ナノクラスター分子
出典:
1)http://www.kyushu-u.ac.jp/pressrelease/2015/2015_01_06.pdf
2) Soonchul Kang, Hui Zheng, Tao Liu, Kohei Hamachi, Shinji Kanegawa, Kunihisa Sugimoto, Yoshihito Shiota, Shinya Hayami, Masaki Mito, Tetsuya Nakamura, Motohiro Nakano, Michael L. Baker, Hiroyuki Nojiri, Kazunari Yoshizawa, Chunying Duan, and Osamu Sato, “A ferromagnetically coupled Fe42 cyanide-bridged nanocage”, Nature Communications, Vol. 6, Article number: 5955, doi:10.1038/ncomms6955 (2015).
概要:
 九州大学,大連理工大学,高輝度光科学研究センター,熊本大学,九州工業大学,大阪大学,東北大学の共同研究グループは,3価のFeイオンと2価のFeイオン,合計42個をシアノ基で架橋した巨大な分子磁石となるカゴ状磁性ナノクラスター分子の開発に成功したことをNature Communicationsに発表した.大型放射光施設SPring-8によるX線構造解析により,3価のFeイオンと2価のFeイオンの配置を含めた分子構造を明らかにするとともに,東北大学の強磁場実験施設を用いて,3価のFeイオンが強磁性相互作用を持ち,基底状態においてS=45となることを実験的に示した.
本文:
 九州大学,大連理工大学,高輝度光科学研究センター,熊本大学,九州工業大学,大阪大学,東北大学の共同研究グループは,高スピン状態の3価のFeイオンと低スピン状態の2価のFeイオン,合計42個をシアノ基で架橋した巨大な分子磁石となるカゴ状磁性ナノクラスター分子の開発に成功したことをNature Communicationsに発表した.
 均一性に優れた分子磁石を原子・分子をナノスケールで操作して合成することができれば,超高密度の磁気記録システムの実現や分子レベルのチップを集積した分子エレクトロニクスの実現に繋がると期待されている.しかしながら,分子を構成する原子磁石の磁気モーメントは反平行に揃うことが多く,強磁性的な磁気秩序を持つ強い分子磁石を人工的に合成することは困難であった.この問題に対して,九州大学 先導物質化学研究所の佐藤治教授らの研究グループは,分子の構造やFeイオン間の磁気的相互作用を精密に設計し,様々な合成条件を検討することで,原子磁石の磁気モーメントが平行に揃った分子磁石の合成に成功した.この分子磁石は[{Fe(Tp)(CN)3}24{Fe(H2O)2}6{Fe(dpp)(H2O)}12(CF3SO3)6]・18H2Oという緑色の立方体状の単結晶として得られる(Tp: hydrotris(pyrazolyl)borate,dpp:1,3-di(4-pyridyl)propane).
 大型放射光施設SPring-8によるX線構造解析により,この分子ナノクラスターは高スピン状態のFe3+イオン18個と低スピン状態のFe2+イオン24個を含み,シアノ基で架橋された星形多面体の頂点に3価のFeが位置する構造であることを明らかにした.また,東北大学の強磁場実験施設を用いて測定した温度2 Kにおける磁化曲線より,3価のFeイオン同士に強磁性的な相互作用が働き,磁気モーメントの大きさが90 µBであることが明らかになった.このことから,全てのFe3+イオンのスピンが同一方向に配列していることがわかる.すなわち,Fe3+(5 µB)×18 = 90 µBである.
 本研究で得られたナノクラスター分子は,大きさと構造が完全に均一であり,強磁性を示すことから超高密度記録材料などへの応用が考えられる.また,この分子はナノメートルサイズの中空のカゴ状構造をもち,毒性の少ないFeを主成分としているため,磁場を用いたドラッグデリバリーシステムへの応用も期待されるとしている.

(埼玉大学 柿崎 浩一)