分野:
磁気物理
タイトル:
サイリスタ効果を示す有機材料を発見
出典:
第9回SPring-8シンポジウム (2005/11/17-18)
概要:
 早稲田大学理工学部の寺崎教授らは有機導電体θ-(BEDT-TTF)2CsCo(SCN)4の単結晶がT=4.2Kでサイリスタと同じ電流-電圧特性を示し、インバータのように直流電圧から交流電圧を発生させることを発見しました。物質単体でサイリスタ効果を示す現象の確認は世界で初めて、有機エレクトロニクス素子開発の可能性を示唆する研究です。
本文:
 サイリスタは電源の安定化と省エネ効果などを目的としたインバータ回路に必要な電子素子で、クーラーや冷蔵庫などに広く用いられています。しかし、従来のサイリスタは、半導体テクノロジーを用いて単結晶を微細加工して作成しています。それに対して本研究では微細加工などの製作工程を必要としない物質それ自体がサイリスタと同じ電流-電圧特性を示す有機導電体θ-(BEDT-TTF)2CsCo(SCN)4を発見しました。(An organic thyristor, Nature, vol. 437, (2005) 522)。有機導電体θ-(BEDT-TTF)2CsCo(SCN)4はBEDT-TTF(ビスエチレン・ジチオ・テトラチオ・フルバレン)誘導体のひとつでこの誘導体には電気伝導性や超伝導を示すものがあります。

 早稲田大学理工学部の寺崎教授らはこの物質がサイリスタと同じ電流-電圧特性をT=4.2Kにおいて示す原因は電荷秩序状態が電流によって融解することによるものであることを放射光利用したX線回折実験によって明らかにしました。電荷秩序とは電荷が規則的に並んだ固体のようなものであり、電子は動けない凍った状態であるといえます。電流によって凍った状態の電子が溶け始め、急速に電気が流れるようになります。電荷秩序による超格子ピークの強度の電流依存性を測定することにより、X線回折実験において電荷秩序の融解現象を観測することが出来ました。

 このような有機サイリスタ物質は複雑な回路を必要としない電子素子の有力な候補物質として考えられます。しかしこの現象はT=4.2Kという極低温で現れるものであり室温で動作しませんので、直ちに有機サイリスタ実用化に結びつくものではありません。しかし、有機化合物がエレクトロニクス材料として大きな可能性をもっていることが裏付けられた研究であるといえます。

(財団法人高輝度光科学研究センター 水牧仁一朗)