第64回ナノマグネティックス専門研究会報告

日 時:
2015年6月26日(金)13:30~16:45
場 所:
中央大学駿河台記念館
参加者:
14名

 今回のナノマグネティックス研究会では、磁気センサーおよび磁気ヘッド応用が期待される材料物性に関する研究と、磁性体の重要な性質である磁気異方性の理論の研究について、講演が行われた。本研究会では発表の途中でも質疑可能なスタイルをとっており、今回も活発な議論を行うことができた。講演概要は以下のとおりである。

  1. 「磁気センシングのための表面プラズモン材料」
    ○芦澤好人、中川活二 (日大)

     表面プラズモンの励起条件を用いて磁気センシングを行う新たな手法に関する報告があった。表面プラズモンを励起する相と磁気的に応答する相の組み合わせが重要であることが説明され、非固溶材料系であるAg-Co薄膜や非金属磁性体を用いるAu/フェライト薄膜における表面プラズモンの磁気応答が報告された。特にAg-Co薄膜は、単層で磁気応答性を示すため、膜厚で容易に表面プラズモンの励起を制御可能であることが示された。

  2. 「ホイスラー合金を用いたCPP-GMRにおける界面の効果」
    ○古林孝夫、Ye Du、Jiamin Chen、Songtian Li、
    佐々木泰祐、桜庭裕弥、高橋有紀子、宝野和博(物材機構)

     CPP-GMRにおいて高いMR出力を得るためにはスペーサー層との界面での効果が重要であることを述べた。すなわち、エピタキシャル膜を用いた場合に抵抗変化量が結晶方位によって影響をうけることを示し、これが格子マッチングの良し悪しに対応していることを示した。また、強磁性層として同じホイスラー合金を用いた場合でも、新たなスペーサー材料によって大きな抵抗変化量が得られることが解り、今後スペーサー材料の開発が高いMRを得るために重要であることを示した。

  3. 「ノンローカルスピンバルブに適した高感度MR材料の開発」
    ○岩崎仁志、橋本 進、白鳥聡志、高岸雅幸(東芝)

     HDDの再生ヘッド応用が期待される、NLSV(Non-Local spin-valve)の高出力化に関する報告がなされた。従来、フリー層に設けられていた非磁性出力端子を廃して、ピン層スピン注入端子と共通化することで、スピン流のフリップによる重大な出力低下を回避する構造が紹介された。この構造で、さらにフリー層に対するスピン注入層の端子面積の比率を一桁大きくすることで、ローカルSV並みの出力が期待できることが示された。また、さらに高出力を得るための注入層界面に特殊な極薄酸化物層を形成する構造が紹介された。これは、スピン抵抗マッチングの最適化のみならず、ローカルSVに用いた場合に非常に大きなMRが得られていることから、分極率の観点からも有望であり、NLSVにおいて大幅な出力増大が期待できるとの見解が示された。

  4. 「結晶磁気異方性の理論」
    ○佐久間昭正(東北大)

     磁気異方性の理論について、基礎的知識の説明から最近のアプローチまで、幅広い内容で講演がなされた。FePtなどの規則度が異方性にかかわる系の取り扱い方や、CPAによりだ結晶をunit cellに落とし込む方法などがわかり易く紹介された。また、従来Callen-Callen則として広く知られている、磁気異方性の磁化三乗則に対して、有限温度での遍歴電子磁性体の異方性ではこの関係が成り立たないことが、理論的に説明された。磁気異方性を応用する際の材料は、多くが遍歴電子磁性体であり、今後これらのアプローチがますます重要であることが述べられた。

文責:宮内(TDK)、鴻井(東芝)