日 時:
11月30日(金)13:30~16:45
場 所:
中央大学駿河台記念館 560号室(東京都千代田区神田駿河台3-11-5)
参加者:
27名

 今回のナノマグネティックス研究会では、ホイスラー合金における巨大Peltier効果、ハーフメタル性と異方性磁気抵抗効果(AMR)の極性の理論的検討、STM技術を駆使した単一分子の巨大磁気抵抗効果、超短パルス光によるスピン波励起・伝搬方向の制御、について最先端の研究者を招いて講演頂いた。本研究会では発表の途中でも質疑可能なスタイルをとっており、今回も活発な議論を行うことができた。講演概要は以下のとおりである。

  1. 「Peltier cooling effect in full-Heusler compound Co2MnSi/Au current perpendicular to plane nano-pillar structures」

    ○Subrojati Bosu、桜庭 裕弥、長谷川 浩太、高梨 弘毅(東北大学)

     従来より高スピン分極材料として注目されているホイスラー合金について、巨大なPeltier効果を観察した結果が報告された。ホイスラー合金膜上に積層したAu層を100nm角以下にパターニングして垂直通電することで、バルクのSeebeck係数から予想されるPeltier係数より実に一桁以上大きな値が観察されている。特徴的な点は、吸熱を示す印可電流の方向がadiabatic spin-entropy expansionを考慮した理論予想と逆であることで、このメカニズムの解明が今後の重要課題とされた。ホイスラー合金として、Co2MnSiおよびCo2FeSiについての実験結果が報告され、ともに巨大なPeltier係数が得られている。しかし、その温度依存性は材料依存があり、今後様々な物質について体系的に調べていくという方針が示された。

  2. 「異方性磁気抵抗効果の理論的研究」

    ○古門 聡士1、角田 匡清2、針谷 喜久雄3、佐久間 昭正2
    1静大工、2東北大工、3産総研ナノシステム部門)

     ハーフメタル性と異方性磁気抵抗効果(AMR)の極性の関係について、理論的考察の結果が報告された。多くの磁性合金は電流に対して磁化の向きが垂直のときに低抵抗となる正のAMRを示すが、ハーフメタルは必ず負のAMR(電流と磁化の向きが互いに平行で低抵抗となる)を示すことが理論的に示された。これは、従来のAMR理論が特定の系に対してのみ適用できるものであったのに対して、伝導電子の抵抗率のスピン依存を考慮すること、および全てのs-d散乱の過程を考慮に入れることで、一般の強磁性に対して適用できるように拡張した理論によるものである。この拡張されたAMR理論式に対して、別途第一原理計算により求めたスピン依存抵抗率を当てはめると、実験値と非常に良い一致を示すことが報告された。AMRは測定が容易であるため、ハーフメタルの可能性の有無を判断するツールとして有効であるとの意見が述べられた。

  3. 「単一分子スピントロニクス」

    ○山田豊和(千葉大院融合)

     今日の情報社会を支える情報記憶エレクトロニクス産業のもつ大きな課題の一つは、いかにして超高密度・省電力・省資源な次世代デバイスを開発できるかである。本課題に対し講演者らは、巨大磁気抵抗ヘッドの非磁性層として新たに1nmサイズの単一有機分子を使用し、非常に良いスピンフィルターとして機能することを発見し、本報告ではその詳細につき述べられた。2つのナノ磁石の間のスペーサーとして1個のフタロシアニン(H2Pc)有機分子(大きさ約1nm)を挿入した単一分子磁気接合をスピン偏極STM(走査トンネル顕微鏡)技術を駆使して作成され、同時に磁気抵抗が測定された(超高真空中、4K)。Co(111)/ H2Pc /Co(111)単一分子磁気接合でGMR=+60%、Fe(110)/ H2Pc /Mn(001)単一分子磁気接合でGMR=-50%の巨大磁気抵抗が確認された。有機分子を規則的に制御すれば非常に有効な磁気材料となることが示された。

  4. 「空間成形光パルスを用いたスピン波の生成と伝播制御」

    ○佐藤 琢哉(東京大学生産技術研究所)

     フェムト秒光パルスを用いて磁化を超高速に制御する研究についての結果が報告された。円偏光を磁性体に照射することによって逆ファラデー効果により、光の進行方向に沿った有効磁場が生成される。こうして誘起されたスピン波伝播の空間・時間分解測定について詳細な説明がなされた。サンプルには磁気光学効果の大きい希土類鉄ガーネットが用いられ、ポンプ光とプローブ光の照射位置をずらすことで、スピン波の空間伝播を観測された。誘起されたスピン波は、静磁波の一種として矛盾無く解釈され、さらにポンプ光のスポット形状によって、スピン波の伝播方向が制御可能なことが述べられた。

文責:鴻井克彦(東芝)、塚本 新(日大)