【分野】 スピンエレクトロニクス

【タイトル】 異常ホール効果による磁化スイッチングに成功

【出典】
Takeshi Seki, Satoshi Iihama, Tomohiro Taniguchi, and Koki Takanashi, “Large spin anomalous Hall effect in L10-FePt: Symmetry and magnetization switching” Phys. Rev. B 100 (2019) 144427.
DOI: 10.1103/PhysRevB.100.144427
東北大学 プレスリリース
「異常ホール効果による磁化スイッチングに成功 スピントロニクス素子の従来技術とは一線を画す情報書込方法に道すじ」2019年10月21日
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2019/10/press20191021-04-hall.html

【概要】
L10型FePt規則合金の異常ホール効果から生成されたスピン流(スピン異常ホール効果)により、Cu非磁性層を介して積層させたFeNi合金層の磁化をスイッチングさせることに成功した。変換効率(スピン異常ホール角)が25%にも達することが明らかとなり、新しい高効率なスピン流生成方法として期待される。

【本文】
東北大学金属材料研究所の関剛斎准教授および高梨弘毅教授、同大学 材料科学高等研究所の飯浜賢志助教、および産業技術総合研究所スピントロニクス研究センターの谷口知大主任研究員の研究グループは、異常ホール効果によってスピン流を創り出す「スピン異常ホール効果」の材料としてL10型FePt規則合金に着目し、巨大なスピン異常ホール効果を発見した。
スピン異常ホール効果は、2015年に谷口氏らにより理論提案された現象であり(T. Taniguchi et al., Phys. Rev. Applied 3, 044001 (2015).)、スピン異常ホール効果の発生源となる強磁性体の磁化の方向によりスピン流の分極方向を制御できることがポイントである。そのため、非磁性体のスピンホール効果とは異なり、外部磁場が無くとも磁化をスイッチングできる可能性がある。しかしながら、これまでのスピン異常ホール効果の変換効率は10%程度であり(例えば、S. Iihama et al., Nature electronics 1, 120-123 (2018).)、磁化をスイッチングさせるのに十分な変換効率は得られていなかった。
今回研究グループが着目したL10型FePt規則合金は、大きな異常ホール効果を示す材料として知られていたが、スピン異常ホール効果に着目した研究は皆無であった。研究グループは、L10型FePt規則合金層の上にCu非磁性層とFeNi強磁性層を積層させた巨大磁気抵抗素子を作製し、強磁性共鳴スペクトルを測定することでFePt層のスピン異常ホール効果によって生成されたスピン流がFeNi層の磁化ダイナミクスに与える影響を調べた。そして、FeNi層の共鳴スペクトル線幅の変化からスピン異常ホール効果の変換効率(スピン異常ホール角)を見積もったところ、25%にも達することがわかった。さらに、素子に印加する電流を掃引することで、素子抵抗の高い状態と低い状態との遷移が現れ、ヒステリシスが観測された。この抵抗変化はFePt層のスピン異常ホール効果によってFeNi層の磁化がスイッチングしたことを意味しており、スピン異常ホール効果を用いて磁化をスイッチングできることが実証された。
今回得られた成果は異常ホール効果の新しい機能性を実証し、情報書込みという新たな用途を切り開くものである。これにより、従来スピントロニクス素子が用いてきた技術とは一線を画す情報書込方法の道が拓かれ、研究開発が今後加速するものと期待される。

(東北大学 梅津理恵)