【分野】スピンエレクトロニクス

【タイトル】
CoFeB/MgO磁気トンネル接合における極薄MgO層の内部の化学結合変化の観測

【出典】
Masaaki Niwa, Akira Yasui, Eiji Ikenaga, Hiroaki Honjo, Shoji Ikeda, Tetsuya Nakamura, and Tetsuo Endoh, Journal of Applied Physics 125, 203903 (2019); https://doi.org/10.1063/1.5094067
高輝度放射光(SPring-8)を用いてSTT-MRAM用極薄MgOトンネル障壁膜の化学結合状態の微視的変化の観測に初めて成功 ~原子拡散挙動を決定する化学結合状態の微視的観測により高性能STT-MRAMの開発を加速(プレスリリース)(東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター, 高輝度光科学研究センター, 2019年6月27日)

【概要】
STT-MRAM用極薄MgO層(0.8nm)を有するCoFeB/MgO磁気トンネル接合膜におけるMgO層の化学状態をSPring-8-BL47XUの角度分解硬X線光電子分光法を用いて解析した。その結果、MgO層は過酸化状態にあった。さらに、製膜時のIR照射によって結晶性を向上させたMgO層では熱処理による酸素の放出が抑えられることがわかった。MgO層の結晶性を制御し過酸化状態を制御することで、磁気トンネル効果の劣化が抑制できる。

【本文】
指定国立大学法人東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES)の遠藤哲郎センター長のグループと公益財団法人高輝度光科学研究センター(理事長 雨宮 慶幸:兵庫県佐用郡佐用町光都1丁目1番1号)は、共同で、CIESコンソーシアム産学共同研究プロジェクト「不揮発性ワーキングメモリを目指したSTT-MRAMとその製造技術の研究開発」プログラム及び科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(研究代表者:遠藤哲郎)において、STT-MRAMにおけるCoFeB/MgO磁気トンネル接合内のMgOの化学結合状態をSPring-8-BL47XUの角度分解硬X線光電子分光法(AR-HAXPES)により解明することに成功した。
 高いトンネル磁気抵抗(tunneling magnetoresistance: TMR)効果と低い素子抵抗(resistance area product: RA)が必要であり、欠陥のない薄いMgO層が求められている。層厚が1.2nmをきると欠陥のためにTMR効果が劣化するが、製膜中にIR照射をするとMgO層の結晶性が向上し、TMR効果が回復することが報告されている。
 そこで、本研究ではSPring-8-BL47XUの角度分解硬X線光電子分光法を用いて、B1s、Mg1sなどの結合エネルギーを解析した。Mg1sの結合エネルギーを解析から、製膜中にIR照射したMgO層は過酸化状態にあり、CoFeBを結晶化させるための熱処理後もMgO層からの酸素の離脱が抑制されていた。また、B1sの解析から、MgO層の結晶粒界を通じてのO原子、B原子の拡散が抑制されていた。これらの結果から、MgO層の結晶性を制御してその過酸化状態を維持することで、極薄MgOを有する磁気トンネル抵抗の劣化を抑制できることがわかった。
 本成果は、2019年5月24日に、米国応用物理系学術誌Journal of Applied Physicsから出版された(J. Appl. Phys. Vol. 125, 203903 (2019), DOI:10.1063/1.5094067)

(群馬大学 櫻井浩)