第144回研究会報告 第13回ナノマグネティックス専門研究会共催

「実用化段階を迎えた垂直磁気記録」

日時:2005年10月21日(金)10:00~16:40
場所:日本化学会 化学会館
参加者:95名

講演内容:

  1. 「垂直磁気記録の高密度化への今後の展開」
    青井基(東北大)

     垂直磁気記録方式は東芝からの製品出荷により新しい時期を迎えた。その節目にあたり、連続媒体の改良、ディスクリートトラック方式、パターンド媒体方式などによる高密度化の可能性、課題について検討が行われ、その結果が報告された。
     

  2. 「垂直磁気記録方式を用いたハードディスク・ドライブ」
    竹尾昭彦(東芝)

     垂直磁気記録方式を採用したハードディスク・ドライブの開発において、真に熱揺らぎに強く、かつ高S/N比を実現した垂直媒体と、それを用いたドライブの高い環境信頼性および将来について報告された。
     

  3. 「高密度垂直磁気記録技術」
    西田靖孝(日立)

     二層垂直記録媒体と単磁極ヘッドの組み合わせでの垂直磁気記録方式について、従来課題とされていた現象とその対策を紹介するとともに、スピンスタンド検証実験を通して、更なる高密度化の可能性が示された。
     

  4. 「垂直磁気記録用ヘッドにおける磁極材料特性と磁区構造のポールイレージャーに対する影響」
    平田京(TDK)

     垂直磁気記録用ヘッドの記録磁極から生じる残留磁束と媒体の軟磁性裏打ち層に起因する信号消去問題(ポールイレージャー)について、単層記録磁極膜の材料特性とポールイレージャー発生の因果関係が実験的・理論的に考察された。また、磁極のヨーク部分の磁区構造と材料特性、ならびにポールイレージャーとの関係が報告された。
     

  5. 「CoPtCr-SiO2垂直媒体の現状と課題」
    竹野入俊司(富士電機アドバンストテクノロジー)

     Ruを中間層とするCoPtCr-SiO2媒体において、粒径4.5nmとロッキングカーブ半値幅2.5度を実現したこと、またトレーリングシールド型ヘッドを用いた評価で、軟磁性裏打ち層の薄膜化により記録再生特性が向上することが示された。
     

  6. 「Co-Pt-TiO2膜の磁気特性と膜構造」
    有明順(秋田県高度技術研究所)

     垂直磁気記録媒体用Co-Pt-酸化物薄膜の検討を行なった。酸化物として添加したTiO2は他の酸化物と比べ、さまざまな条件において薄膜中で金属/酸素比がほぼ1対2を維持し、この状態で比較的大きなKuや小さなa( M-Hループの傾き)などを有することから、低ノイズ媒体の可能性を見出せることが示された。
    (なお研究会資料のFig.12、ならびにこれに関する記述に不適切な内容があることが判明しましたので、削除いただくようお願いいたします)。

     

  7. 「グラニュラ垂直磁気記録媒体の高密度化に向けて」
    島津武仁(東北大)

     熱安定性と飽和記録特性を両立させる媒体として、一軸磁気異方性の2次項Ku2を利用した媒体とHard/Softスタック媒体について、開発の現状と課題に関する報告が行われた。Ku2媒体の実現には、膜の反磁界を抑制して垂直磁化を安定化させることが課題であること等が示された。
     

  8. 「L10-FePt薄膜の微細構造と磁気特性 ~FePt垂直磁気記録媒体実現のための材料的課題~」
    高橋有紀子(物質・材料研究機構)

     FePt規則合金を磁気記録媒体として使うためには多くの材料的な課題がある。L10-FePtナノ粒子の作製および規則化温度の低減に注目し、TEMを用いたFePt薄膜の組織および構造の詳細な検討結果やFePt連続膜の規則化過程およびFePt微粒子の規則化のサイズ効果などが紹介された。

 今回の研究会は95名という多くの参加者を集めて、実用化段階を迎えた垂直磁気記録の現状、将来の更なる高密度化に向けての課題やそれらを解決するための諸技術などについて、媒体を中心にドライブ、ヘッドも含めた幅広い観点から活発な議論が展開され、非常に有意義な研究会であった。本研究会を大いに盛り上げて頂いた講師の皆様,ならびに活発にご討論いただいた多くの参加者に,この場を借りて感謝したい。

(富士通研 戸田順三、日立GST 西岡浩一)