第138回研究会報告

「磁性微粒子研究の新展開」

日 時:2004年11月26日(金) 9:30-17:40
場 所:化学会館501号室
参加者:51名

  1. 「Pd超微粒子表面に出現する強磁性」
    佐藤徹哉(慶大)、篠原武尚(理研)、谷山智康(東工大)

     非常に清浄な表面を持ち,フリースタンディングなPd超微粒子をガス中蒸発法で作製し磁性を調べた.その結果,粒子表面の(100)面にのみ強磁性が発現し,強磁性秩序は表面から2 – 5層に存在し,Pd一原子あたり0.75±0.31μB のモーメントを持つことを見いだした.

  2. 「個々の微粒子の超常磁性と集団の協力現象」
    間宮広明(物材機構)

     ナノメートルサイズの強磁性微粒子の磁気特性に関する研究の現状について解説した.特に,それらを大規模に集積して初めて生じる協力現象に関する近年の著しい研究の進展について詳述した.

  3. 「磁性微粒子の電子線ホログラフィー」
    進藤大輔(東北大)

    電子線ホログラフィーの原理を説明し,25nm径のCo微粒子間の磁束の直接観察について述べた.また,Coナノ粒子を含むナノグラニュラーCo-Zr-O磁性薄膜では,組成変化に伴う磁区構造の変化を詳細に解析した結果について解説した.

  4. 「磁性粒子に作用する光放射圧と光マニピュレーション」
    古川祐光、廣瀬伸吾、森 和男、天神林孝二(産総研)

     ナノおよびマイクロメートルサイズの磁性粒子の動きを制御することを目的として,光ピンセットを利用した実験と,その理論とに関する研究について講演した.

  5. 「ポリオールプロセスを用いた金属および合金ナノ磁性微粒子の合成」
    バラチャンドラン・ジャヤデワン(東北大)

     Bottom-up手法を用いたナノ粒子合成過程に対する基本的な考え方を紹介し,金属および合金ナノ粒子合成において有力な化学手法であるポリオールプロセスを用いたCoおよびNi金属ナノ粒子の合成とその粒子径および結晶構造制御について述べた.

  6. 「化学合成によるL10型FePtナノ粒子の規則化過程と磁気特性」
    小川智之、高橋 研(東北大)

     化学的手法によって作製されたFePtナノ粒子の粒子サイズ,組成,結晶構造および粒子分散状態とナノ粒子固有の磁気特性ならびにそれら集合体の磁気特性との関係を詳細に調べ,L10規則相の形成過程を議論した.

  7. 「化学合成FePt微粒子媒体の媒体特性」
    児玉宏喜、百瀬 悟、杉本利夫、田中厚志(富士通研)

     我々は,ナノ粒子媒体の第一目標として,従来型の媒体の延長線上の微粒子・均一分散媒体としてとらえ,成膜技術,凝集抑制技術,配向性付与技術に注力し研究を行ってきた.成膜技術に関しては,スピンコート法を開発し,凝集抑制技術に関しては,安定剤の追加により凝集を制御した.また,最大の琴題である配向性の付与についても,合成後にfct構造を有するナノ粒子を磁場中アニールすることで,磁気的な異方性が付与できることを確認した.さらに,記録・再生評価も行い,記録したパターンの解析により,線記録密度400kFCIの信号を確認した.

  8. 「磁気反応機能性流体とその展開」
    島田邦雄(福島大)

     磁気反応機能性流体には磁性流体(MF)や磁気粘性流体(MR流体、MRF)があるが、MRFの分散安定性を向上させる目的で、MFとMRFを混合した磁気混合流体(MCF)が提案されている。MCFのクラスタ構造、磁気特性、及びダンパ、研磨等への応用について解説した。

  9. 「生物の作る磁性ナノ粒子の応用」
    松永 是(農工大)

     磁性細菌は菌体内にナノサイズの磁気微粒子を生合成する.この粒子は形状・粒径の揃ったマグネタイトであり,優れた磁気特性を有する.近年,磁性細菌の遺伝子組み換え技術により,様々なタンパク質を表面にアセンブリングした機能性磁性ナノ粒子の作製し,工学的応用が飛躍的に進んでいる.

  10. 「医用磁性ビーズの作製と応用」
    阿部正紀、半田 宏、松下伸広(東工大)

     4°Cもの低温かつ中性の膵液液中でフェライトナノ粒子を合成する反応中に,直接各種の生理活性物質を強固に固定する方法を開発した.この技術を活用して,フェライトナノ粒子をポリマー分子で強固に被覆したり,生理活性物質を強固に固定する方法を確立し,バイオスクリーニングやその他の新しい医学的応用をめざしている.

 本研究会では、磁性体微粒子に関してその基礎から応用に至る幅広い分野での最新の研究成果が取り上げられた。多くの質問があり講演者の方々にも丁寧に答えていただいたおかげで活発な議論が行われ、様々な分野の研究者の交流の機会となったと思われる。今後さらに新しい研究の進展が期待される内容であった。

(物材機構 古林孝夫)
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