第108回研究会報告

薄膜磁気ヘッドの課題と将来展望

日 時:1999年1月28日(木)13:30~29日 (金) 15:00
場 所:湯河原厚生年金会館
参加者:82名

本研究会は,近年ますます高記録密度化が進んでいるハードディスクを支える磁気ヘッドの分野において,その技術の将来展望について議論すべく以下のプログラムで行われた.

プログラム:

1月28日(木)(薄膜磁気ヘッドオーバービュ)

  1. イントロダクトリ
    1.1 薄膜磁気ヘッド技術(最近の進展と課題)
      押木満雅 (富士通研)
    1.2 スピン制御,伝導の理論
      井上順一郎(名大)
  2. 再生ヘッド  座長:鹿野博司(ソニー)
    2.1 Recent progress in spin valve GMR heads
      Bruce Gurney (IBM)
    2.2 スピントンネルの現状と将来
      柘植久尚,上條 敦,中田正文,大橋啓之(NEC)
  3. 記録ヘッド  座長:松寺久雄 (NEC)
    3.1 記録ヘッドの現状と課題
      森田治幸 (TDK)
  4. パネルディスカッション  座長:三浦義正 (富士通)
    4.1 薄膜磁気ヘッドの将来像
    パネリスト:川辺 隆(日立),森田治幸(TDK),長谷川直也(アルプス),大橋啓之(NEC),佐橋政司(東芝),Bruce Gurney(IBM)

1月29日(金)(要素技術)

  1. ヘッドデザイン要素技術  座長:片山利一(東邦大)
    5.1 オーバーライトおよびNSTLシミュレーション
      田河育也 (富士通)
    5.2 磁区制御技術
      福澤英明 (東芝)
  2. ヘッド薄膜プロセス技術 (I)  座長:荒木 悟(TDK)
    6.1 ヘッド設計,プロセス設計
      長谷川直也(アルプス)
  3. 6.2 めっき法による磁性膜の磁気特性と電気抵抗
      川辺 隆 (日立)

  4. ヘッド薄膜プロセス技術 (II)  座長:押木満雅 (富士通研)
    7.1 レジストパターン形成技術
      山田一彦,石綿延行,大橋啓之(NEC)
    7.2 エッチング技術
      市原勝太郎 (東芝)
  5. おわりに

 押木氏からは,近年のハードディスクヘッドの開発状況の概説と,現在および将来問題になるであろう課題の説明がなされた.このなかで記録ポールの形成方法などのいくつかの点でブレークスルーが必要なことが提起された。

 井上氏からは,今後の再生ヘッドで必須となる巨大磁気抵抗(GMR)やトンネル磁気抵抗(TMR)材料について,スピン伝導の基礎から最近の話題までの解説がなされた.現状の理論で現象を十分に説明できるが,特にTMR材料では構造的要因の影響が強く,さらに詳細な結果を得て開発に役立てるためには,各種要因を制御した実験が必要との指摘があった.

 Gurney氏はSpin Valve材料の概説と今後の進展を担う新しい技術の解説をおこなった.この材料は発見からわずか10年で実用化されたという開発スピードの速さ,また現状の材料でとどまることなく今後も進歩していくことが指摘された.

 上條氏は次世代再生ヘッド材料の一つの候補として考えられているTMR材料開発の最先端を講演した.従来よりTMR材料は電気抵抗が高く再生ヘッドに使用する際に問題であると指摘されていたが,最新データとして比抵抗が約25Ωμmと実用化まであと一歩のところまで進んでいることが示された.

 森田氏からは,近年の狭トラック化へ対応させるためのポールトリミング技術の解説や,記録周波数の高周波化の要求に応えるための磁路長やコイル膜数などの設計指針についての講演があった.各技術を着実に進歩させることがドライブ要求に応えるために必要であるとの見解が示された.

 田河氏は,シミュレーションを用いた非線形遷移シフト(NLTS)や高周波応答の解析から,コア材料やヘッド形状の設計の指針を報告した.今後の開発ではヘッドの高周波磁界応答など一般の測定では困難な要因をクリアしていく必要があるが,こうした領域でのシミュレーションによりデザインの方向性を知ることの優位性が示された.

 福澤氏の講演では,今後予想されている狭トラック領域でのSpin valve素子の磁区安定化について材料的・構造的な検討結果が示された.従来の非磁性下地ハード膜の替りにFeCo下地ハード膜を使用することで安定性が向上し,10Gbits/in2以上の高記録密度でも有効との報告があった.

 長谷川氏からは,高密度化に対応させるための記録・再生ヘッドの構造やプロセスの次世代技術について発表があった.再生出力の低下を防ぐための電極オーバーレイド構造,記録コアのトリミングや2ステッププロセスの採用により当面の要求を満足できるとのことであった.

 府山氏から,現在の記録コア形成技術の主流であるメッキ法による磁性膜の特性向上についての発表があった.パーマロイにPやMoなどの第三元素添加を行うことにより,コア材に要求されている高抵抗化,高Bs化にメッキ法で対応できることが報告された.

 山田氏は磁気ヘッドで今後必要になるフォトリソグラフィ技術についての発表を行った.その中で将来の高記録密度化開発の方向が記録波長に比べトラック幅を縮小する方向であるため今後さらにフォトリソ技術が重要になること,微細パターン形成技術では半導体が進んでおりその技術を採り入れながら磁気ヘッドのフォトリソ技術の開発を加速させる必要のあることが指摘された.

 市原氏は,記録コア材料の反応性イオンエッチング(RIE)技術の解説を行い,アモルファス材料を使用した実験では実用的に支障の無いことが示された.従来のヘッド製造プロセスにはない新しい技術のため,未知の部分はあるが今後の可能性が期待できるとのこと.

 初日の夜には「薄膜ヘッドの将来像」と題してパネルディスカッション行われた.パネリストから今後10~20Gbit/in2までは現行技術の延長線で実現可能であるとの意見が多数出されたが,聴衆からは実際に商品レベルのものを作っていくには難関も多いのではという意見もあった.ディスカッションの最後には,今後の記録密度の向上に磁気ヘッドが答えていくことは可能であるとの結論が得られ,磁気ヘッド開発に関係する者としてはさらに研究開発を加速してマーケットニーズに答え続けることが必須であるという印象を受けた.

(ソニー 鹿野)
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