第106回研究会

「微細加工と磁性――磁気デバイスへの応用」

日 時:1998年7月16日(木) 10:00~16:45
場 所:機械振興会館B2ホール
参加者:92名

本研究会は、最近産業界や医療分野で急速にニーズが高まっている超高感度マイクロ磁界センサにスポットをあて、その開発動向と具体的な応用例から今後の展望を探るために企画された。67名という参加者の多さに、この分野への関心の高さがうかがえる。講演題目と講演者は以下の通りである。

講演題目:
 1. 磁性体薄膜の微細加工
   中谷 功(金材技研)
 2. 集束イオンビームを用いたナノ加工
   蒲生 健次(阪大)
 3. BCl3系ガスを用いたCoZrNb膜のRIE
   市原 勝太郎(東芝)
 4. 埋込みサーボによる高密度磁気記録媒体
   大塚 嘉徳、山田 朋良、植松 幸弘(富士通)
 5. 薄膜ヘッド加工へのRIE法の適用
   府山 盛明、小室 又洋、福山 宏(日立)
 6. 薄膜インダクタ高Q化の為の微細加工と磁心特性
   白川 究(電磁研)
 7. 薄膜インダクタにおける加工プロセスと特性
   佐藤 敏郎(信州大)、富田 宏、井上 哲夫、溝口 徹彦(東芝)
 8. LIGAプロセスと磁気マイクロマシン
   荒井 賢一(東北大)

 総説、ユニットプロセス、デバイス応用の順に上記の講演がなされた。中谷氏は、各種加工プロセスを概観し、物理的加工性と化学的加工性を併せ持つRIEの有用性を示した後、磁性体専用機として開発されたEB描画装置(マスク作成用)とRIE装置の解説、実験結果の議論を行った。RIE装置はTi製の内壁が特徴で、壁とガスの反応を防止している。反応性ガスはCO+NH3で高蒸気圧の磁性カルボニルの生成・脱離を行う。NH3はCOのプラズマ分解反応を抑制する役割を担う。Fe, Co-Cr, Ni-Feに対し室温で60-80nm/minの加工速度を得ている。

 柳沢氏は、マスクレスを特長とする集束イオンビーム(FIB)加工の装置構成を解説した後、三つの加工例を紹介した。一つはCl2系ガスを試料に吹き付けながらGa+ビームでNi-Feを加工した例、一つはNi/Resist/Ge試料にGe側からGa+-FIB加工により溝を形成し、溝部のNi側壁を酸化してスピントンネリングチャネルを作成した例、最後はFIB/MBE一貫プロセスでGaAsの埋め込み型スピン制御デバイスを形成した例である。FIBはスループット的には難が有るが、ナノデバイスのコンセプト実証に最適なプロセスと結論づけた。

 市原氏は、Cl2系ガスでCoZrNb膜の昇温RIEを試みた結果を論じ、純Cl2では有意な加工速度が得られないが、BCl3添加エッチングの活性化エネルギーが低下し低温高速加工が実現できること、その理由としてBCl3+の生成効率の高さ、質量の重さを挙げた。また、異方性加工を実現する上では、陰極降下電圧の増加と堆積性ガス(SiCl4)の添加が効果的であることを示した。150℃の温度で200nm/minの加工速度を得ている。

 大塚氏は、磁気記録媒体の微細加工例を概観した後、埋め込みサーボ媒体の実験結果を示した。Si基板をRIEしてサーボ磁性層を埋め込み後リフトオフ、バニッシングで表面を平坦化し記録磁性層を成膜するプロセスを用いる。CoCrPtTaをサーボ層、記録層に用い、偏心補正を掛けてサーボ信号を検出した結果、NRPE(Non-Repeatable-Position-Error)として0.1μm(3σ)を得ている。r-θスキャンの露光機の必要性にも触れた。

 府山氏は、高段差部に高アスペクトの上部磁極を形成するプロセスとして、多層レジスト(Resist/SiO2/Resist)を二段RIEして深溝を形成、溝中にNiFeをメッキ成長する方式を提案した。また、上部磁極形成後、それをマスクに下部磁極をBCl3系ガスでRIEトリミングする方法を説明した。さらにGMR再生素子部の狭トラック化技術としてスピンバルブ部より狭い電極をもつオーバラップ構造を提案し、Ta, TaW電極をCHF3ガスでRIEした結果を示した。

 白川氏は、薄膜インダクタの透磁率(μ)、損失(tanδ)、性能指数(Q)が、磁心長/幅、磁性材料/絶縁材料、磁性層厚/絶縁層厚に、いかに依存するかを詳細に説明した。デバイスサイズでの評価が重要であり、サイズに応じて最適な膜厚配分があることと、μ/tanδが磁性材料、層厚比の選定指標として有用なこと、下部コイル上のレジスト絶縁層の表面凹凸が磁心性能に影響することなどを解説した。  佐藤氏は、高周波パワーデバイスを念頭に薄膜インダクタに要求される諸特性を解説し、試作したマイクロ電源の構造・プロセスを議論した。FeCoBC/AlN多層コアでCuメッキコイルを挟み込んだ構造で、ポイントはコイル部のポリイミド平坦化層上の上部コアの形成と、多層コアの一括加工である。ポリイミド上へクラックフリーで成膜する際に、基板冷却低圧スパッタが有用なことを示した。一括ウエット加工ではAlNの膜質が重要で、低めの窒素分圧で成膜し、Al-richな膜質にすることが重要なことを示した。

 荒井氏は、日本では半導体分野、欧米では幅広く検討されているLIGAプロセスを解説しいくつかの加工例を示した。LIGAは独語のリソ、メッキ、モールドの頭文字の組み合わせで、超高アスペクトのマイクロマシンの加工に最適とのことである。理由はリソに指向性の高いSOR(シンクロトロン放射)光を用いるためである。直径が10nmから数μmのビームで深さ0.1から1mmのレジスト加工ができる。リラクタンスモータ、リニアアクチュエータ、マイクロリレー等の加工例が示され、本プロセスの有用性を印象づけた。

 各種磁性デバイスの微細加工、高アスペクト加工に対する要求が高まっている中、本研究会はタイムリーな話題提供の場となった。参加者数も多く講演のみならず質疑応答も充実した感が強かった。講演件数が多く講演時間が足りない感も有った。応用デバイスを絞り一件の講演に余裕を持たせた研究会も必要な技術分野だと思われる。

(世話人:金材技研 中谷 功、東芝 市原勝太郎)
過去の研究会

前の記事

第107回研究会報告
過去の研究会

次の記事

第105回研究会