第220回研究会/第36回光機能磁性デバイス・材料専門研究会

 

光・熱・電気伝導に関する磁気物理の進展

日 時:
2018年11月22日(木) 13:00~17:15

場 所:
中央大学駿河台記念館
参加者:
35名

 最近、 急速に進展している光と熱や、 熱と電気伝導など複雑に絡み合った磁気物理の最新の世界の研究動向紹介やその最前線で活躍している講演者の最新の研究結果が報告された。これらに興味を持つ聴講者と深く有意義な議論を重ねることが出来、 白熱した研究会となった。特に、 講演中にも質問できるスタイルを採用したため大幅に時間超過することになったが、 多くの質問を受け付けることができたので講演者にとっても聴講者にとっても面白い研究会になった。

  1. 「強磁性体における異常ネルンスト効果の物理」
    ○水口将輝(東北大)

     強磁性金属薄膜における異常ネルンスト効果の物理現象について、いくつかの実験・理論計算結果が紹介された。異常ネルンスト効果と磁気異方性の関係や、異常ネルンスト効果の電界変調などについて、その物理的メカニズムが議論された。

  2. 「スピン軌道ヘテロ構造におけるスピン変換現象」
    ○河口真志1、 廣瀬葉菜1、 丸井幸博1、 林 将光1、21東大、2物材機構)

    熱による影響を上手く取り除くことによって磁気光学効果を通して光学的にスピン軌道トルクの測定が可能となることが明らかとなった。また、 Cu/Biの界面におけるラシュバ効果について光起電力の測定から観測可能であることも明らかとなった。

  3. 「磁性・スピントロニクス材料における熱輸送現象」
    ○内田健一(物材機構)

     スピンと熱の相互作用により、 様々な物理現象や熱制御機能が発現する。例えば、 2018年に観測された「異方性磁気ペルチェ効果」を用いれば、 磁性体中で電流を曲げるだけで、 異物質接合の無い単一物質において電子冷却・加熱することが可能になる。本講演では、 異方性磁気ペルチェ効果に関する研究を中心に、 最先端の熱輸送計測により明らかになった種々の熱スピン効果の特性・機能が紹介された。

  4. 「Ag/Biラシュバ界面を伴う磁性膜の磁気光学効果」
    ○冨田知志(奈良先端大)

     時間反転対称性と空間反転対称性が同時に破れたメタマテリアルという観点から行われた、 パーマロイ・銀・ビスマス三層膜の磁気光学効果の実験について報告が行われた。さらに三層膜の時間分解磁気Kerr効果に関する最新の実験結果も紹介された。銀・ビスマスのラシュバ界面がパーマロイの磁気特性に及ぼす影響について議論された。

  5. 「表面プラズモン励起による近赤外磁気光学効果の増強
    ~ Co/Ru多層膜の磁気カー効果とマグネトリフラクティブ効果」

    ○斉藤 伸(東北大)

     伝導電子のスピン依存散乱現象を積極的に活用した金属磁性多層膜の赤外磁気光学効果について紹介された。空気側に4 nm程度の薄いAu層を設けることにより近赤外光領域で磁性多層膜に表面プラズモン共鳴を励起することが可能であり、 積層構造としてはCo/Ru/Coの構成を1回しか設けなくても、 反射型マグネトリフラクティブ効果を数%まで増強できることが示された。

  6. 「磁性の電界効果の新しい展開」
    ○千葉大地(東大)

     Co/Pt系薄膜において①レーストラックメモリのデータ(磁化)書込みに電界制御が利用できること、 ②電界によりファラデー回転角を極大とゼロに切り替えることが出来、これが光スイッチに応用できること、 ③電界によりジャロシンスキー守谷相互作用を制御できることなど最新の実験結果が紹介された。

文責:粟野博之(豊田工大)、 内田裕久(豊橋技科大)