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第121回研究会・第10回磁性人工構造膜の物性と機能専門研究会報告

「スピンエレクトロニクスの現状と将来展望」

日 時:2001年10月23日(火)9:00 ~ 16:45
場 所:機械振興会館 研修Ⅰ号室
参加者:78名

プログラム:

  1. TMRを用いたスピンエレクトロニクスとは? 
    宮崎照宣(東北大)
  2. 半導体を用いたスピンエレクトロニクスとは? 
    田中雅明(東大)
  3. 強磁性トンネル接合の絶縁障壁と高速スイッチング特性 
    安藤康夫、林 将光、中村洋明、久保田 均、宮崎照宣(東北大)
  4. MRAM技術の現状と課題 
    田原修一(NEC)
  5. TMRの量子サイズ効果とその応用(共鳴トンネルトランジスタに向けて) 
    長濱太郎、湯浅新治、鈴木義茂、安藤功兒(産総研)
  6. スピン依存単電子トンネル現象とその応用
    薬師寺 啓、三谷誠司、高梨弘毅(東北大)
  7. 金属/半導体グラニュラー構造における磁気抵抗スイッチ効果
    秋永広幸(JRCAT産総研/東大物性研)
  8. 半導体ヘテロ接合変調ドープ構造、及び共鳴トンネル構造へのスピン注入
    山田省二(北陸先端大)
  9. 半導体中のスピン制御とスピンコヒーレンス  
    大野裕三、大野英男、松倉文礼(東北大)

 宮崎氏は、スピンエレクトロニクスが新しい研究分野として形成されてきた歴史的経緯、欧米や日本における関連プロジェクトについて紹介し、磁性分野と半導体分野間のより緊密な協力が必要であることを指摘した。さらに、トンネル磁気抵抗(TMR)素子の応用としては、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)が最も有望であることを示し、その実用化に向けて解決すべき各種の問題点を挙げ、特にスピン注入磁化反転技術の重要性を指摘した。

 田中氏は、半導体スピンエレクトロニクスの現状について総括した。特に、スピンエレクトロニクスにおける半導体の特徴と役割を説明するとともに、室温を越える強磁性転移温度を持つ半導体材料(Cd,Mn)GeP2、TiO2:Co、ZnO:Co、(Ga,Mn)N、CrAsが最近相次いで報告されていることを紹介した。さらに、各種デバイスの原理について整理するとともに、今後の課題と展望について触れ、材料、物性、デバイス、回路、システムなどの分野間の協力が必要であることを指摘した。

 安藤氏は、TMR素子の特性のバラツキ抑制のための重要課題となっている、絶縁障壁層の均一性の問題に関連して、STMとコンタクトAFMを用いた絶縁障壁層の局所構造と伝導特性の解析結果について紹介した。特に、Al酸化方法依存性や熱処理効果等のデータを基に、金属Alの構造の制御が重要であることを指摘した。さらに、TMR素子のスイッチング特性を、強磁性共鳴(FMR)を用いた手法により評価し、印加磁界72Oeで6nsの磁化反転時間が得られたことを示した。

 田原氏は、メモリーデバイスにおけるMRAMの位置付け、将来性について、他のデバイスとの比較を交えて説明し、不揮発・低消費電力メモリーとして、日米各社でMRAMの研究開発が加速している現状を紹介した。また、MRAMの原理、予想される性能、応用分野について紹介し、磁性体加工技術の確立、書き込み・読み出しバラツキの改善など、実用化に向けた課題は多いものの、IT時代に大きな波及効果を持つ理想的なメモリーとしてMRAMが期待されていることを示した。

 長濱氏は、Fe単結晶電極を用いた強磁性トンネル接合において量子井戸効果を観測したことを紹介した。Fe単結晶の結晶方位に依存したTMR効果についてまず紹介し、次いで、Fe(001)単結晶を超薄膜化することにより、その強磁性トンネル接合の微分コンダクタンススペクトルにおいてFe膜厚に依存した振動現象が生じることを見出し、その振動現象がFe(001)超薄膜内に形成された量子井戸準位によるものであることを指摘した。

 薬師寺氏は、CoAlOグラニュラー薄膜を用いた微細構造試料における磁気伝導現象について紹介した。ナノブリッジ試料において、クーロンブロッケイド現象によるクーロン階段の観察に成功した。さらに、この試料のトンネル磁気抵抗比は30%以上を示し、その大きさがクーロン階段の周期に従って振動することを見いだした。

 秋永氏は、表面を硫黄で終端処理したGaAs基板上にMnSbナノサイズクラスターを形成した金属/半導体グラニュラー構造における磁気抵抗スイッチ効果について紹介した。この試料では、これまでに320,000%を越える磁気抵抗効果が得られているが、しきい値電圧が5Vまで低減されたことや、磁場感度の向上および高速動作などに関する実験結果が紹介された。

 山田氏は、狭ギャップ半導体であるInGaAsを用いたヘテロ構造の作製と、そのゼロ磁場スピン分裂を評価した結果について紹介した。また、変調ドープヘテロ接合および共鳴トンネルダイオードにおけるスピン注入の実験結果についても紹介した。ヘテロ接合におけるスピン注入では、2次元電子ガス層の抵抗値の磁場依存性にヒステリシスが観測され、半導体へのスピン注入効果であることが示された。

大野氏は、GaAs/AlGaAs量子井戸構造における電子のスピン緩和の制御について紹介した。n型に変調ドープしたGaAs/AlGaAs(110)量子井戸では、主要なスピン緩和機構であるD’yakonov-Perel’機構が抑制されるため10ns以上という長いスピン緩和時間を得ることに成功している。また、核スピンの分極、操作および検出をすべて光で行う全光核スピン共鳴により、69Ga、71Ga、75Asの共鳴線の観測結果について紹介した。

(東京農工大 石橋、名古屋大 浅野)