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日本応用磁気学会第112回研究会報告

「トンネル磁気抵抗効果の応用に向けて」

日 時:1999年11月26日(金)9:45 ~17:00
場 所:機械振興会館B3研修室
参加者:129名

プログラム:

TMR材料研究の現状

  1. トンネル磁気抵抗効果に関する最近の研究
    宮崎照宣(東北大)
  2. スピンバルブ型TMR材料
    小林和雄(富士通)
  3. グラニュラ系のTMRと単一電子トンネリング
    三谷誠司(東北大)

TMR応用研究の現状と課題

  1. GMR,TMRの磁性ランダムアクセスメモリへの応用
    松山公秀(九大)
  2. TMRのMRAM応用研究の現状と課題
    猪俣浩一郎(東芝)
  3. Physics and Applications of Magnetic Tunneling
    S.S.P.Parkin(IBM)
  4. 磁気ヘッド用スピントンネル素子
    中田正文(NEC)

まとめ: 宮崎照宣(東北大)

 本研究会はトンネル磁気抵抗効果(TMR)の応用の課題を議論する目的で開催された。TMRは精力的に研究が行われている分野であり、また直前に開かれたMMMに関する話もあり、多くの参加者を集めた。研究会は材料研究の現状と応用研究の現状と課題ということで二部に分けたが、内容的には問題点を違った角度から検討するものが多く、それが課題を明確に理解するのに役立った。

 宮崎氏(東北大)からは、実験及び理論の最近の成果の総括的な説明があった。応用に向けての問題点としてTMR比と抵抗値の最適化の制御、デバイスのセル間のばらつき、繰り返し使用に対する耐性、MR比のバイアス依存性、静電破壊に対する耐性等があるが、かなり克服されていることが説明された。更にMMMとその後米国で数社を訪問された報告があり、MRAMについてのロードマップが示され、米国の企業では実際にデバイスを作って検証が進んでいることが強調された。日本でも産官学にわたるMRAMとスピン半導体のプロジェクトの提案をしようとしている旨が説明された。

 小林氏(富士通)はスピンバルブ型トンネル接合素子の特性について説明した。分極率の観点からこれまでのデータを整理し、計算によるMR値と実験値の一致は必ずしも良くなく、傾向を説明する程度であることを示した。またアニールによってMR比が改善することを説明したが、更なる研究が必要である。またMR比のバイアス電圧依存性についてCo/Al2O3/Co接合で得られたバイアス電圧に対する非対称TMR効果を示しこれを使うことでバイアス電圧依存性の影響を軽減できると説明した。更にトンネル接合の低抵抗化について、理論及び最近の実験結果の分析からバリアー高さを低くして低抵抗及び大きなMR比の実現の可能性を示唆した。

 三谷氏(東北大)は他の講演者と少し違った観点からグラニュラー系のTMRについて論じた。グラニュラー系のTMR効果は接合型に比べて小さいが、帯電効果によるTMR効果の増大や単一電子トンネリングの様な興味ある現象を起こす。STM/STSによって単一電子トンネリングを調べ、階段状のI-V曲線の出現を説明し、周期から帯電エネルギーを見積もった。

 松山氏(九大)からはGMR/TMRをMRAMに応用する場合の磁性薄膜の磁化反転特性の検討、メモリセルの動作シミュレーションの結果、MRAMチップの試作について報告があった。高密度化及び低電力化に向けて設計上での課題が議論された。

 猪俣氏(東芝)はMRAMの動作原理と構造の説明から始め、強誘電体メモリー等との比較でMRAMの優位性を示し、MTJ(Magnetic Tunnel Junction)型のMRAMがS/N上有利であることを論じた。MTJ材料研究の課題を議論しバイアス依存性について信号電圧の観点から考察をおこなった。また二重トンネル接合によってバイアス電圧依存性を小さくできることを説明し、これからの課題として半導体プロセスとの共存がありLSIプロセス技術の開発が重要であると述べた。

 Parkin氏(IBM)はMRAMの動作原理の説明から始まって交換バイアス型のMTJがMRAMの要素として最適であることを説明した。更にMRAMに作るためCMOSのプロセスとの相性が重要であり、400℃でのアニールでも問題が無いことを述べた。またMR値を決定する電子の偏極値を求める分光的な実験について話し、FeCo系でMR効果や偏極はCoとFeの組成にあまりよらず、文献の記述と違うと述べた。更にTMR値の電圧依存性を調べるためにスピンバルブトランジスタによる実験の結果を紹介した。

 中田氏(NEC)は磁気記録用の再生ヘッドへの応用について論じた。この点での最大の課題は低抵抗化であり、これに向けて高品質のトンネルバリアの形成が必要で、「その場自然酸化法」が有効であることを示した。ヘッドの構造として、交換バイアス型のヘッドでハード膜を使う場合にトンネル接合の磁性膜間の絶縁性を確保する構造の一例が提案され、電極を磁性シールドとして使用することで、狭ギャップ化が実現できること議論した。

 まとめは、宮崎氏がMRAMのロードマップを示しながら講演者に対して質問するという型破りな形式で進められた。MRAMに関しては応用をきちんと見定めて、それに向けてデバイスを作ることをしないと単にDRAMの置き換えは難しそうである。どのようなスケジュールでデバイスにしていくか等の議論は、残念ながら時間切れで終わってしまった。


(日本IBM 佐井文憲)