磁気材料(中・上級)

Question
Q1.
電気機器の鉄心材料としてはどのようなものが用いられるのですか?
Q2.
磁性合金薄膜の作製法と注意点は何ですか?

Answer

Q 1
電気機器の鉄心材料としてはどのようなものが用いられるのですか?
A 1.

変圧器(静止器)やモータ(回転機)の鉄心には,機器の高効率化・小型化のため,低損失で飽和磁束密度が高いけい素鋼板が用いられます。 けい素鋼板は、電気抵抗を増大させ渦電流損を抑え、また、機械的強度を増すため,鉄にけい素が0.5∼7%程度含有させています。

また、渦電流の影響を低減するため、 0.3∼0.5mm程度の薄板で表面を絶縁し、図に示すように積み重ねて使用されます。 静止器では、鉄心中の磁束の方向が時間的に変化しないため、方向によって磁気特性が異なる方向性けい素鋼板が用いられ、磁束の方向と磁気特性が良い方向を一致させて使われます。 回転機では、鉄心中の磁束の方向が時間的に変化するため、方向によって磁気特性がほぼ変わらない無方向性けい素鋼板が用いられています。 けい素鋼板には様々な種類があり、その性能はJIS規格の以下のような記号で表されます。

積層鉄心の図

  • 方向性けい素鋼板:30P120 (厚みが0.3mm、周波数50Hz、最大磁束密度1.7Tでの鉄損が1.20W/kg以下であることを示す)
  • 無方向性けい素鋼板:50A350 (厚みが0.5mm、周波数50Hz、最大磁束密度1.5Tでの鉄損が3.50W/kg以下であることを示す)

なお電気機器の鉄心材料としては、けい素鋼板以外にも、例えば高周波で用いられる鉄心材料として電気抵抗の大きいフェライトコアが用いられるなど、用途に応じて様々な鉄心材料が開発されています。

回答: 佐賀大学 村松和弘

Q 2
磁性合金薄膜の作製法と注意点は何ですか?
A 2.

金属磁性薄膜作製には、真空蒸着法やスパッタリング法などのいわゆる物理堆積法(PVD法)を使うことが多いです。真空蒸着法は、文字通り真空中で母材と呼ばれる合金などの金属塊を発熱体や電子ビームを用いて加熱・蒸発させます。スパッタリング法は、加速したイオン粒子をターゲットと呼ばれる合金板に衝突させ、その衝撃により固体表面から原子がたたき出される現象(スパッタリング現象)を利用します。蒸発あるいはスパッタリングで飛び出した原子を基板上に堆積させて薄膜を作製します。

どちらの方法でも、原子の一つ一つを堆積させてゆくため成膜中の真空雰囲気は重要で、特に酸素や水分など、反応性の高いガスの残留に留意する必要があります。高機能の金属人工格子薄膜では、10-8∼10-9 Paの超高真空に対応した真空装置を用い、スパッタリングに使用するArなどの希ガスの純度にも注意が払われます。 真空蒸着法を使う場合には、一般に蒸気圧の異なる複数元素からなる合金を、母材と同じ組成で蒸発させることが困難なため、複数の蒸発源から同時に堆積させる必要があります。

一般に用いられるマグネトロンスパッタリング法では、ターゲットが強磁性材料で透磁率が高い場合、ターゲットの裏に配置されている永久磁石からの漏れ磁界が、ターゲット表面に十分に出てこないために、放電させるためのガス圧や電圧を高く設定しなければならないなど、スパッタしにくい場合があります。この場合は、永久磁石を強力なものに変更するあるいは、ターゲット板の厚みを薄くするなどの対策が必要です。

また、真空蒸着法とスパッタリング法では、基板に堆積する粒子のエネルギーが、蒸着法で0.1 eV程度であるのに対して、スパッタ法では1~10 eVと桁違いに大きいことも特徴的です。このため、一般的にスパッタリング法で作製した薄膜の方が基板に対する付着強度は強く、また、積層膜などの界面での組成混合が起こり易い傾向にあり、目的とする薄膜によって使い分ける必要があります。   これ以外の成膜方法として、レーザーアブレーション法、クラスターイオンビーム法のPVD法、電気化学反応を利用した電着法、原料ガスの熱分解を利用したいわゆる化学堆積法(CVD法)なども、目的に応じて利用されます。

【参考文献】

  • 金原粲著『薄膜の基本技術』(東京大学出版会)
  • 金原粲監修、白木靖寛/吉田貞史編著『薄膜工学』(丸善)
  • 藤森啓安他編『金属人工格子』(アグネ技術センター)
  • 権田俊一監修『薄膜作製応用ハンドブック』(エヌティーエス)

回答作成: 平成16年度MSJ企画委員会