209.01

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【分野】スピントロニクス

【タイトル】631%の室温トンネル磁気抵抗比(TMR比)を達成

【出典】Thomas Scheike, Zhenchao Wen, Hiroaki Sukegawa, and Seiji Mitani, “631% room temperature tunnel magnetoresistance with large oscillation effect in CoFe/MgO/CoFe(001) junctions”, Appl. Phys. Lett. 122, 112404 (2023). https://doi.org/10.1063/5.0145873

【概要】NIMSのThomas Scheike、介川裕章らは単結晶CoFe/MgO/CoFe構造の磁気トンネル接合を用いて、室温におけるトンネル磁気抵抗比(TMR比)を更新する631%を観測した。MgO膜厚によってTMR比が大きく振動する現象も付随して現れ、その振動幅は140%以上に達することも発見した。本研究成果により、磁気センサーの高感度化や磁気メモリの高集積化など磁気デバイスの高性能化が期待される。

【本文】磁気トンネル接合(MTJ)はハードディスクの磁気ヘッドや磁気抵抗メモリ(MRAM)に使用される磁性薄膜素子であり、これらの応用では大きなトンネル磁気抵抗比(TMR比)を示すMTJが必要である。最近では、MTJは高感度磁気センサーとしても注目を集めており、性能向上のため室温TMR比の大幅な増大が求められている。1995年にMiyazakiとTezuka、及びMooderaらにより十数%の室温TMR比が報告された後、活発なMTJの研究開発が行われ、2008年にIkedaらにより最大となる604%が報告されている(Appl. Phys. Lett. 93, 082508 (2008))。しかしその後、進展は途絶え、急速な発展は望めない状況にあった。
本研究では、ScheikeらはMTJ薄膜積層の基本に立ち返り、磁性層(CoFe)と絶縁層(MgO)の界面を精密に制御することで、「コヒーレントトンネル効果(※)」の改善を行った。特に、エピタキシャル薄膜技術を利用して高品位な界面の作製を目指した。例えば、MgO層の成膜にはスパッタの代わりに電子線蒸着を用い、CoFe/MgO界面の酸化状態の最適化のために極薄マグネシウム層の挿入や追酸化の手法を駆使した(図a)。これにより高品位なCoFe/MgO/CoFe(001)積層を実現し、その結果最大の室温TMR比は、微細加工前のウェハ(CIPT測定)において617%、微細加工素子(面積:40 m2)において631%に達した(図b)。興味深いことに、MgO厚さに対してTMR比が振動して変化する現象が最大TMR比の増加と共に増大し、振動幅は141%に達した(図c)。この現象はMTJ伝導を強く支配しているにも関わらず、従来のコヒーレントトンネルの理論では説明がつかない。今後、この未知の現象を解明することで、より大きなTMR比を実現するためのヒントが得られることが期待される。また、本技術の応用素子への展開が進めば、超高感度磁気センサーや超大容量MRAMの開発を大きく加速させることが期待される。
(NIMS 増田啓介)

※トンネル伝導が面内運動量を保存して起こる効果。MgOなどの結晶質トンネルバリアで顕著になる効果で、多くのMTJのTMRのメカニズムとして知られている。

【図】(a) The core stack structure and processes of a magnetic tunnel junction with “interface tuning”. (b) Tunnel magnetoresistance (TMR) ratio and resistance as a function of magnetic field. (c) TMR oscillation effect with MgO thickness.

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