108.01

分野:
スピンエレクトロニクス
タイトル:
強磁性多層膜における位相のずれた磁化歳差によるスピンポンピング効果の増幅
出典:
1) “Giant enhancement of spin pumping in the out-of-phase precession mode”, “Giant enhancement of spin pumping in the out-of-phase precession mode”, Appl. Phys. Lett. 104, 052407 (2014).
 
 
概要:
 2つの強磁性層を有する強磁性多層膜におけるスピンポンピング効果と2つの磁化の位相差の関係を理論的に求めた。位相差が180度の時に最大でα~10-2程度という大きなGilbertダンピング定数の増加が予言された。
 
 
本文:
 東北大学の高橋は強磁性/非磁性/強磁性多層膜において2つの強磁性層の磁化が共に歳差運動を行っている時のスピンポンピング効果と磁化の位相差の関係を理論的に調べた。スピントロニクス・デバイスのエネルギー損失(ジュール熱)を抑えるため、近年、純スピン流の効率的な生成手法の探索が盛んに行われている(スピン流とジュール熱の関係は例えば A. A. Tulapurkar and Y. Suzuki, Phys. Rev. B 83, 012401 (2011) 参照)。純スピン流の生成手法の一つがスピンポンピングである。スピンポンピングは強磁性共鳴において磁化がマイクロ波から受け取った角運動量の一部が、強磁性/非磁性界面での磁化と伝導電子の相互作用を通じて非磁性層に流出する現象である。この非磁性層へのスピン流の流出は、初期の研究では強磁性共鳴の線幅(Gilbertダンピング定数)の増加という形で確認されていたが (S. Mizukami et al., Phys. Rev. B 66, 104413 (2002)) 、最近ではスピンホール効果・逆スピンホール効果を用いたスピン流・電流変換によって電圧として検出することも行われている (K. Ando and H. Saitoh, J. Appl. Phys. 108, 113925 (2010))。今回、高橋は強磁性多層膜のスピンポンピング効果によって増幅するGilbertダンピング定数を伝導電子スピンの拡散方程式と磁化の運動方程式(LLG方程式)に基づき計算した。2つの磁化の位相が揃っている時には同じ向きに偏極したスピン流が逆向きに非磁性層を流れるのでスピンポンピングの効果は小さくなる。一方、磁化の位相差が180度の時はスピンポンピングの効果が大きくなり、α~10-2程度のGilbertダンピング定数の増加が期待される。この値は材料特有のGilbertダンピング定数と同程度という極めて大きな値である。高橋は交流磁場の印加による位相のずれた歳差運動の誘起方法についても理論提案しており、実験による確認が行われれば純スピン流の効率的な生成手法として注目を集めるであろう。

(産総研 谷口知大))