122.01

【分野】
スピンエレクトロニクス
【タイトル】
スピン軌道相互作用に起因したスピントルクの角度依存性の理論計算
【出典】
“Angular dependence of spin-orbit spin-transfer torques”, Phys. Rev. B 91, 144401 (2015).
【概要】
韓国大学のLeeらはRashba相互作用と交換相互作用を含む2次元電子モデルからスピントルクの角度依存性を評価した。フィールド・ライク・トルクは2つの相互作用が同程度の時にのみ大きな角度依存性を示すが、ダンピング・ライク・トルクは相互作用の大きさや磁化の角度に対し複雑な角度依存性を示すことが示された。
【本文】
近年、重金属非磁性/金属強磁性接合系においてスピン軌道相互作用より生じるスピントルクに注目が集まっている。スピン軌道相互作用が生じる場所は非磁性層内(バルク効果)と界面(Rashba効果)の2つが提案されており、それぞれについて様々なモデル計算で多様なスピントルクの角度依存性が主張されている。この多様さが、専門外の研究者に対し(もしかしたら専門家から見ても)この分野が活発に見える反面、難しそうな印象を与えているかもしれない。しかしスピントルクの角度依存性はスピントルク磁化ダイナミクスの臨界電流や、スイッチング・発振が原理的に可能か否かについて大きく影響するため、基礎面だけでなく応用面からも無視できない問題である。
韓国大学のLeeらは本研究で2次元自由電子系にRashba相互作用と交換相互作用が加えられた時の非平衡スピン密度を数値的に計算し、スピントルクの角度依存性を計算した。過去の研究では2つの相互作用の一方が他方に比べ大きい極限のみ議論されていたが(C. O. Pauyac et al., APL 102, 252403 (2013))、最近の第一原理計算で両者が同程度の評価されたことに基づき(P. M. Haney et al., PRB 88, 214417 (2013))、本論文でも両者が同程度の場合を考えている。計算の結果、スピントルクのフィールド・ライク・トルク成分は、Rashba相互作用が弱いもしくは強い時は角度依存性が小さいが、その中間領域では比較的大きな角度依存性を示すことが分かった(図2)。一方、ダンピング・ライク・トルクは相互作用の大きさや磁化の回転方向によって複雑な角度依存性を示す(図3)。このようにより広いパラメーター範囲でスピントルクの理論予想ができるようになったことは分野にとって前進であることに間違いない。後はこれを実験で確認できるか、また応用上はこれをLandau-Lifshitz-Gilbert(LLG)方程式に組み込める形でモデル化できるか、といったところが次の課題になるであろう。

(産総研 谷口知大)