106.01

分野:
磁気物理
タイトル:
対称性によるHo単一原子の磁気モーメントの安定化
出典:
“Stabilizing the magnetic moment of single holmium atoms by symmetry” T. Miyamachi, T. Schuh, T. Markl, C. Bresch, T. Balashov, A. Stohr, C. Karlewski, S. Andre, M. Marthaler, M. Hoffmann, M. Geilhufe, S. Ostanin, W. Hergert, I. Mertig, G. Schon, A. Ernst & W. Wulfhekel, Nature 503, 242 (2013).
 
 
概要:
 Pt(111)表面上に吸着させた希土類金属Ho単一原子のスピン緩和時間をスピン偏極走査トンネル顕微鏡を用いて計測した。Ho単一原子の基底状態間の量子トンネル効果を抑制することにより、スピン緩和時間が従来の単一原子と比較して約10億倍(~10分)に達しうることを示した。
 
 
本文:
 金属表面上に吸着した磁性単一原子は、極限まで微細化された磁気素子として超高密度磁気記録媒体や量子ビットとして使用できる可能性があり、近年注目を集めてきた。単一原子の磁気的安定性に関する研究はこれまで主に遷移金属単一原子について行われてきたが、磁性を司る単一原子の3d軌道と金属基板との強い混成により、磁化方向が容易に反転してしまうことが問題となっていた。単一原子と基板間に絶縁体層を挿入することにより基板の伝導電子との相互作用を抑制し、かつ磁気モーメントを安定化させるために高磁場を印加した場合でさえ、観測されるスピン緩和時間が1マイクロ秒以下と非常に短かった。
 カールスルーエ工科大学(独)のWulfhekelグループはPt(111)表面上に希土類金属Ho単一原子を吸着させ、そのスピン緩和時間を原子分解能で磁気状態の計測が可能なスピン偏極走査トンネル顕微鏡(SP-STM)を用いて計測した。希土類金属単一原子は磁性を司る4f軌道が内殻軌道であるため基板の伝導電子との相互作用が弱く、かつ磁気的安定性の指標の一つである磁気異方性エネルギーが遷移金属単一原子よりも大きい。
 Ho単一原子の磁化方向はSP-STMの磁気シグナルを観測することにより判断できる。SP-STM磁性探針と単一原子の磁気モーメントが平行の場合、磁気シグナルは大きく、反平行の場合、磁気シグナルは小さくなる。SP-STM磁性探針をHo単一原子の上に配置し、磁気シグナルの時間変化を測定した結果、Ho単一原子はひとつの磁気情報(上向き、下向き)を10分以上保持していることが明らかとなった。3d遷移金属単一原子と比較してHo単一原子のスピン緩和時間が著しく増大した理由として、時間反転対称性、Ho単一原子の全角運動量(J= 8)の内部対称性、Pt(111)表面の対称性(C3v)の組み合わせにより基底状態間の量子トンネルが抑制されたためと考えられる。また、磁場印加中に同様の測定を行ったところ、スピン緩和時間の減少が確認された。これは磁場印加により時間反転対称性が破れ、量子トンネルが誘起されたためと理解できる。

(東大物性研 宮町俊生)