15.06(Nature, vol. 436, (2005) 1136)

分野:
磁気物理
タイトル:
電荷秩序化で記述される誘電体の実在を検証
概要:
 (財)高輝度光科学研究センターの池田らは、三角格子電荷フラストレート系LuFe2O4の強誘電性の起源が、電荷秩序の存在と双極子配列を取る電子密度分布によるものであることを明らかにした。電子の存在のみで記述される誘電性は、電子のスピン・軌道といった磁気的な自由度を誘電体に直結させた材料開発につながる可能性がある。
本文:
 強誘電体材料は磁気材料と並び、記憶媒体やセンサー等各種の電子デバイスに幅広く使われている。一般に強誘電体は、陰イオンと陽イオンペアの原子変位が電気双極子を形成し,その結晶全体にわたる秩序配列が自発(電気)分極となるこで強誘電性が現れる。三角格子電荷フラストレート系RFe2O4では、電気分極が存在し、誘電率が大きくまた分極反転過程がFeの電子の揺らぎに直結することが解っていた。さらに、三角格子上の電荷のフラストレーションを起源として、電荷の秩序配列が存在すると指摘されていた。

 RFe2O4中ではFeイオンは系全体の平均からFe2.5+と見なしうるが、(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)の池田らは、放射光を用いた鉄K吸収端での共鳴X線回折実験を行い、三角格子上でFe2+イオンとFe3+イオンが超格子配列をとる電荷秩序が存在することを明らかにした。また、この物質では電荷の超格子構造が電気双極子の発生を許し、またこの超格子は自発(電気)分極の発生温度から生じ、電気分極の秩序変数になっていることが分かった。これらのことから、彼等はこの物質について、電荷秩序によって双極子配列を形成した電子密度配列が起源となる誘電体であり,既知の誘電体の様な陽イオンと陰イオンペアの原子変位に起源を持たないことを確定した(Ferroelectricity from iron valence ordering in the charge-frustrated system LuFe2O4, Nature, vol. 436, (2005) 1136)。

 電子の存在のみで記述される誘電体は、電子誘電性として理論的な可能性が指摘されていたが今回はその実在を確かめたことになる。電荷という電子の自由度がそのままで誘電性の発現の起源となることは、スピンや軌道と言った磁気的な自由度が、誘電性と直結した現象を示す物質の開拓につながる。磁性と誘電性が共存する物質には、磁気記録や誘電記録だけでは得られない多様なメモリ材料や機能性デバイスの開発が期待される。電荷秩序化で記述される誘電体の実在が検証されたことは、マルチフェロイックスでの電気磁気相の制御や、磁性と誘電性が協力する新しい磁気光学的現象の利用も期待される。

(日本原子力研究所 安居院 あかね)