241.01
【分野】 磁気記録、スピントロニクス
【見出し】
HDDヘッド中のスピントルク発振素子のための新評価手法を開発
【出展】
Y. Nakagawa, H. Suto, Y. Sakuraba, and T. Maeda, “Determination of coupling state within a spin-torque oscillator using injection locking,” Commun. Phys. 9, 17 (2026). https://www.nature.com/articles/s42005-025-02469-4 (Open access)
共鳴型マイクロ波アシスト磁気記録向け「スピントルク発振素子」の発振状態を解明する世界初の評価手法を開発-次世代大容量ニアラインハードディスクの開発に貢献- | 総合研究所 | 東芝
https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/26/2601-01.html
【概要】
東芝は、物質・材料研究機構(NIMS)と共同で、HDDにおける次世代技術の1つであるマイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)に用いるスピントルク発振素子(STO)の新評価手法を開発した。本手法は、外部からのマイクロ波とSTOとの同期現象を評価することでSTOの発振状態を解明でき、MAMRやスピントロニクス素子の研究開発に貢献できる。
【本文】
社会のデジタル化や生成AIの進化が著しい現代において、データセンターの拡大に代表されるように、情報ストレージニーズが増大し続けている。ハードディスクドライブ(HDD)は依然として情報ストレージデバイスの中心であり、さらなる大容量化が求められている。
HDDは磁気工学、スピントロニクス、機械工学や電気工学の技術が高度に融合することで大容量化を成し遂げてきた磁気記録デバイスである。さらなる大容量化のために開発が進められているのがエネルギーアシスト磁気記録技術であり、磁気記録媒体(ディスク)にマイクロ波を照射するマイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)、および熱を加える熱アシスト磁気記録(HAMR)の二つの方式の開発が進められている。
MAMRにおけるマイクロ波源は、HDDヘッドの先端に作製されるスピントルク発振素子(STO)が担っている。STOは、スピン偏極電流によって磁化の大きな歳差運動(発振)を生じさせるスピントロニクス素子である。STOの発振によって生じるマイクロ波、およびSTOの発振状態を解析・理解することが、STOの設計改良とMAMR技術の開発に不可欠である。しかし、立体的に作り込まれた磁極(例えばFig1(b)のPoleおよびShield)に囲まれた、ナノスケールサイズかつ数10 GHzで発振するSTOの発振状態を解析することはこれまで困難であった。
今回、東芝は、物質・材料研究機構(NIMS)との共同研究により、STOの発振状態をHDDヘッド内部で解明可能な新評価手法を開発した。本手法では、評価用アンテナ(CPW)から外部マイクロ波をSTOに照射し、STOの発振との同期現象を評価する(Fig. 1)。同期現象はSTOの発振状態に強く依存するため、磁極の影響を排除しつつ、発振状態を解明できる。
東芝はMAMR向けに双発振型STO (Fig. 1b)を開発しており、その特長である双発振状態が得られているかを直接確かめることが求められていた。しかし、従来の発振信号、すなわち、発振に応じた抵抗変化に基づく高周波信号からは、非双発振状態との区別はできていなかった。本手法が測定する同期信号は、非双発振状態でのみ観測され (Fig. 2(a))、双発振状態では観測されないため (Fig. 2(b))、発振状態の区別が可能になった。
本手法は、素子側に高周波の伝送特性を要求しないため、HDD従来の配線を用いた測定が可能である。同様に、HDDヘッドのような複雑な構造中に作製され、一般的な配線で動作するSTO素子の研究開発にも本手法は広く適用できると考えられ、スピントロニクスの理解深化に寄与できる。
東芝は、本手法を用いてSTOの高度な改良設計とMAMR技術開発を促進するとしている。
本記事に掲載した図はCreative Commons license 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)の基に転載しています。
文責:中川裕治(東芝)

Fig. 1: Schematic of measurement. (a) Hard disk drive (HDD) head placed on a coplanar waveguide (CPW). (b) Magnified view of the HDD head, where an STO is fabricated between the pole and shield. An external microwave magnetic field (HCPW) is injected into the STO.

Fig. 2: Comparisons between conventional and newly established measurement results. (a), (b) Spectrum intensity (Top) and synchronization signal (ΔRSTO, Bottom), where ISTO is the STO current. Positive and negative ISTO induce non-coupled (a) and coupled (b) oscillation, respectively.

