240.01

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【分野】スピントロニクス

【タイトル】スピンの新たな発振原理を提案:ポラリトンに基づくゲイン駆動磁化ダイナミクス

【出典】
Ryunosuke Suzuki, Takahiro Chiba, and Hiroaki Matsueda, “Gain-driven magnon-polariton dynamics in the ultrastrong coupling regime: Effective circuit approach for coherence versus nonlinearity”, Phys. Rev. B 113, 024412 (2026).
https://doi.org/10.1103/q418-bxr6(Open Access)

【概要】
 東北大学の鈴木龍之介氏、山形大学の千葉貴裕准教授らは、マグノンとフォトンが結合した準粒子であるマグノン‐ポラリトンを基盤とした、新しい磁化の発振原理を理論的に提案した。本研究では利得(ゲイン)を含む有効回路モデルを構築し、強結合から超強結合領域にわたるゲイン駆動磁化ダイナミクスを解析した。その結果、特に超強結合領域ではマグノン‐フォトン結合がマグノンの自己Kerr非線形性に対して優位になり、フォトン系(回路)のゲインが結合を介してマグノンの固有モードを安定化させ自励発振が生じることを明らかにした。さらに外部磁場により発振周波数を広範囲に制御でき、周波数可変なスピン発振デバイスへの応用が期待される。

【本文】
 近年、磁化ダイナミクスを利用した発振現象は、スピントロニクスやマイクロ波デバイスの観点から大きな関心を集めている。従来のスピントルク発振器では、スピントルクとして直接磁化に利得(ゲイン)を与えることで自励発振を実現してきた。一方で、マグノンとフォトンが結合した準粒子であるマグノン‐ポラリトンを基盤とする発振原理は、未だ十分に理解されていない。
 今回、当研究者らは、ゲインによって駆動されるマグノン‐ポラリトンに基づく新しい磁化ダイナミクスの発振原理を理論的に提案し、そのダイナミクスを強結合(strong coupling: SC)領域から超強結合(ultrastrong coupling: USC)領域にわたって解析した。特に、結合強度gが固有周波数に匹敵するUSC領域において、フォトン系(回路)のゲインとマグノン系の非線形性が磁化ダイナミクスの自励発振にどのように寄与するかを明らかにすることを目的とした。図(a)に示すように磁化ダイナミクスを磁束の変数として記述し、負性微分抵抗(図の素子S)によるゲインを含むマグノン‐ポラリトン系の有効回路モデルを構築した。このモデルでは、強磁性体のサイズを調整することでマグノン‐フォトン間の結合強度を制御できる。また、形状磁気異方性に由来するマグノンの自己Kerr非線形性を自然に取り込んでおり、現実的な磁性体デバイスを反映した記述となっている。SC領域では、自己Kerr非線形性が支配的となり、共鳴周波数のシフトやマグノン‐フォトン間のコヒーレント結合の実効的な低下が生じることが分かった。この領域では、非線形性が発振を抑制する方向に働く。これに対してUSC領域では、マグノン‐フォトン結合が自己Kerr非線形性に対して優位になり、フォトン系のゲインが結合を介してポラリトン化したマグノンの固有モードを安定化させ自励発振が生じる[図(b)]。これは、マグノン‐ポラリトンという混成状態になることで、フォトン系(回路)のゲインが結合を介してマグノン系(磁化ダイナミクス)に注入されるという新しい発振原理を示している。さらに、図(c)に示すようにUSC領域においては外部磁場を調整することで、自励発振周波数を広い範囲で連続的に制御できることを示した。
 以上の結果を統合的に解釈すると、マグノン‐ポラリトン系では結合強度の増大とマグノンの自己Kerr非線形性との間にトレードオフ関係が存在することが分かる。本研究は、非線形ポラリトン系におけるゲインと超強結合の関係の理解を進めると共に、マグノン‐ポラリトンに基づく新たなスピンの発振原理を提示するものである。これにより、周波数可変なメーザーデバイスや新しい磁化ダイナミクス制御手法への応用が期待される。

関連する同研究グループの研究成果は238.01にも掲載されている。詳細はリンク(https://www.magnetics.jp/tech-info/238-01/)を参照。

文責:増田啓介(NIMS)

(a)ゲイン駆動磁化ダイナミクスの有効回路モデル。h(t)は単一モードのLC共振器(コイル)内のマイクロ波磁場(フォトン)、m(t)は外部磁場H0下における磁化の一様な歳差運動(マグノン)。(b)自励発振時の磁化軌道の様子。(c)自励発振周波数(緑色)の外部磁場依存性。これらの計算では、磁性体として薄膜形状をもったY3Fe5O12を想定した。

磁気応用

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