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【分野】スピントロニクス

【タイトル】垂直磁化膜ナノチューブのスピン軌道トルク駆動磁壁シフトを予測

【出典】
N. Umetsu, et al., Phys. Rev. B 112, 094425 (2025)
DOI: https://doi.org/10.1103/ngkw-t9r8

【概要】
 キオクシアの梅津らは,3次元メモリへの応用が期待される垂直磁化膜のナノチューブにおける磁壁挙動を理論解析した.形状に起因する有効磁場を定式化し,スピン軌道トルクで駆動される磁壁のシフト特性を予測した.チューブ径の調整により磁壁速度を制御できる可能性を示しデバイス設計に向けた重要な知見を提示した.

【本文】
 次世代大容量ストレージとして,様々な3次元構造の磁壁メモリが提案されている。その中でも,ナノチューブ型磁壁メモリは、高密度な構造として注目されており、特に、磁壁移動層に垂直磁気異方性材料を用いて動径方向に磁化させた垂直磁化膜ナノチューブ構造においては、従来の面内磁化膜ナノチューブ構造に比べて磁壁幅を縮小できる可能性があり、高密度化が期待される。また、この構造では従来のスピントランスファートルクによる磁壁移動に比べてスピン軌道トルクを利用して高効率な磁壁移動を誘起することが可能と予想され、低消費電力化が期待できる。しかしながら、従来の研究では面内磁化膜の検討が主であり、垂直磁化膜ナノチューブ構造について十分な考察は行われてこなかった。
 梅津らは、垂直磁化膜ナノチューブ構造における磁壁挙動の理論モデルを初めて構築した。ナノチューブの形状に起因する磁壁に作用する有効磁場として、交換相互作用により誘起される異方性ライク磁場、静磁相互作用により誘起される異方性ライク磁場とDzyaloshinskii-Moriya interaction(DMI)ライク磁場があることを示し、各有効磁場を定式化した。サブ100nm直径の垂直磁化膜ナノチューブ構造では、DMIライク磁場の影響が材料起因のDMIと同程度の寄与となるため、磁壁のカイラル構造がナノチューブ径に依存することを明らかにした。
 さらに、定式化した有効磁場を解析的な磁壁ダイナミクスのモデルに組み込むことで、垂直磁化膜ナノチューブ構造における電流駆動磁壁シフト特性の定量的予測を可能にした。この結果は独立に実施したマイクロマグネティクスシミュレーションの結果とも一致することを確認した。解析モデルとシミュレーションの結果から、ナノチューブ構造においても、平坦なナノリボン構造と定性的に同様の機構でスピン軌道トルクが磁壁シフトを誘起することを示した。さらに、ナノチューブ構造における磁壁のカイラル構造がナノチューブ径に依存することを反映して、磁壁シフト特性(スピード、移動方向)はナノチューブ径に依存することを明らかにした。
 これは、垂直磁化膜ナノチューブ構造の磁壁速度は材料を変えずに形状の調整で制御できる可能性を示し、デバイス設計に向けた重要な知見である。

文責:板井 翔吾(キオクシア)

磁気応用

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