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【分野】スピントロニクス

【タイトル】巨大トンネル磁気抵抗の謎「抵抗振動現象」の解明に大きく前進

【出典】

  • Keisuke Masuda, Thomas Scheike, Hiroaki Sukegawa, Yusuke Kozuka, Seiji Mitani, and Yoshio Miura, “Theory for tunnel magnetoresistance oscillation”, Phys. Rev. B 111, L220406 (2025).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevB.111.L220406  (Editors’ Suggestion, open access)
  • NIMSプレスリリース 2025年6月18日
    https://www.nims.go.jp/press/2025/06/202506180.html 
  • 【概要】
    NIMS増田啓介 主任研究員らのグループは、スピントロニクス分野の長年の未解決問題「トンネル磁気抵抗(TMR)振動現象」に対する新たな理論を提案し、実験で観測されるTMRの巨大振動の再現に成功した。TMR振動現象は2023年、NIMSグループによって実現された世界最高記録の巨大TMR効果に付随する現象であり、この現象の解明はTMR効果を更に増大させる鍵であると考えられていた。今後は本理論に基づく、TMR振動現象を制御する指針、およびTMR比を更に向上させる方針の確立が期待される。

    【本文】
     トンネル磁気抵抗(TMR)効果は磁気センサーや磁気メモリに応用されるスピントロニクス現象であるが、応用範囲の拡大に向けて、その性能指数であるTMR比を更に向上させる必要がある。この点に関し最近NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センターのグループでは、2023年、15年ぶりに室温TMR比の世界最高記録を更新した [1]。同時にこの研究では、TMR比が絶縁層膜厚に対して大きく振動する「TMR振動現象」が観測され、この現象の起源解明が更なるTMR比向上の鍵であることも明らかにされた。一方で、TMR振動現象はその発見以来20年余りその起源が明らかにされておらず、スピントロニクス分野の未解決問題と位置付けられてきた。
     今回当研究グループは、従来の理論研究で見過ごされてきたメカニズムを考慮した新たなTMR効果の理論を提案し、これによりTMR振動現象が再現されることを明らかにした。TMR効果は、磁性層/絶縁層/磁性層という3層構造をもつ磁気トンネル接合(MTJ)で発現し、磁性層と絶縁層の間の界面が重要な役割を果たすと考えられる。本理論研究のポイントは、このような界面における波動関数の重ね合わせ状態 [図(a)] を考慮した点にある。本理論に基づき計算されたTMR比は、実験的に得られたTMR振動現象を良く再現することが明らかにされた [図(b)]。
    これまでTMR振動現象に対する実験は、Feなど限られた磁性体を用いたMTJで行われてきた。今後、多様な磁性体を用いたMTJでの実験と本理論との比較・検討により、TMR振動現象に対する理解が一層深まることが期待される。さらに、本理論はTMR振動を制御する指針や、TMR比の更なる向上に向けた設計指針の確立にも貢献すると期待される。

    [1] NIMSプレスリリース 素子「界面」の高度な制御で世界最高の磁気抵抗特性を達成 https://www.nims.go.jp/press/2023/04/202304130.html(2023年4月13日)

    (鹿児島大学 三井好古)

    (a)本研究の新規理論の概念図。磁性層と絶縁層の界面における波動関数の重ね合わせが鍵となる。(b)本理論に基づく計算結果と実験結果の比較。計算結果は様々な条件で実験結果と一致し、TMR振動現象を良く再現していることがわかる。

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