第191回研究会/第45回スピンエレクトロニクス専門研究会 報告

「ベリー位相とトポロジカル絶縁体」

日時:2013年7月9日(火) 10:30 ~ 16:30
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:48名

今回の本研究会はスピンエレクトロニクス専門研究会との共催という形で,現在物性物理学のホットな話題となっているベリー(Berry)位相およびそれに起因するトポロジカル絶縁体について,当該分野で日本を代表する研究者の方々にご講演いただいた.概して物理的に難解な内容を含むため,講演者の方々には初学者にもわかりやすいよう初歩的な解説から始めていただき,最先端の研究成果に至るまで紹介していただいた.この分野に対する高い注目度を反映して,当日は学生からシニアの方々に亘る多くの参加者で会場が満員となり,活発な質疑応答が行われた.各講演の概要は以下の通りである.

講演内容:

  1. 「トポロジカル絶縁体の表面・界面状態とカイラリティ」
    ○村上修一 (東工大)

    最初の講演ということで,全体のイントロダクションも兼ねて,ベリー位相およびトポロジカル絶縁体についての初歩的内容から解説していただいた.トポロジカル絶縁体の基本的性質,特に表面に現れるディラックコーンおよびそのカイラリティについての説明が示され,そうした表面状態が薄膜や界面や超格子において互いに混成しあうことで特異なバンド構造が生じることが紹介された.

  2. 「トポロジカル絶縁体の表面電子状態とスピン伝導」
    ○長谷川 修司 (東大)

    トポロジカル絶縁体の特徴的な振舞いについて,物質表面の電子状態とその観測に焦点を当てた講演がなされた.表面電子状態は低次元系であるだけでなく空間反転対称性が破れており,そのために強いスピン軌道相互作用を持つ物質の表面状態はスピン分裂し,ときとしてトポロジカル表面状態を形成することが説明された.さらにそのような特異な表面状態に対して,STMによる電荷およびスピン輸送の研究例が紹介された.

  3. 「トポロジカル絶縁体バルク単結晶における表面状態」
    ○瀬川耕司 (阪大)

    トポロジカル絶縁体の単結晶を用いた実験について,主として材料の観点からこれまでの研究が概括され,さらに講演者自身のものも含む最新の研究成果が紹介された.特にBi2-xSbxTe3-ySeyという4元混晶において高いバルク絶縁性が得られることが報告され,また新種のトポロジカル絶縁体であるトポロジカル結晶絶縁体についての最新の研究が紹介された.

  4. 「磁性トポロジカル絶縁体とゼロ磁場量子ホール効果」
    ○岩佐義宏 (東大)

    トポロジカル絶縁体におけるゼロ磁場量子ホール効果(量子異常ホール効果)についての研究が紹介された.まずエネルギー散逸の無い電流の実現という観点から,量子ホール効果,量子スピンホール効果,ゼロ磁場量子ホール効果が一連の流れとして捉えられることが示され,本研究の意義が強調された.次いで,トポロジカル絶縁体に磁性イオンをドープした系でのDirac電子の媒介による強磁性の発現,ならびに磁壁エッジに沿った電流の観測などの成果が紹介され,さらにゼロ磁場における量子ホール効果の実現に至る経緯が紹介された.

  5. 「磁性元素無添加カルコゲン化合物超格子薄膜からの巨大磁気抵抗効果 ―構造相転移によるトポロジカル絶縁性とラシュバ効果の発現―」
    ○富永淳二 (産総研)

    次世代の相変化メモリとして期待されているGeTe/Sb2Te3カルコゲン化合物へテロ超格子膜で観測される室温での巨大磁気抵抗効果についての研究が紹介された.講演者らによる実験結果と第一原理計算による現象の解析が示され,この超格子材料が示す特性はトポロジカル絶縁体とラシュバ効果に起因している可能性が高いことが報告された.

  6. 「X線光学におけるBerry位相効果の理論と実験」
    ○澤田 桂 (理研)

    ベリー位相理論を光学に適用する「ベリー位相光学」と呼ぶべき理論の概要が紹介された.光の伝搬に関するベリー位相の理論が基礎から紹介され,ベリー位相の概念は電子のみならず光学へ応用することができ,それにより見通しよく光学現象を理解できることが説明された.次いで,歪結晶における光の巨大横滑りなどの新現象が理論的に導かれることが示され,さらに実験による検証例が報告された.

  7. 文責:黒田眞司 (筑波大),齋藤秀和 (産総研),冨田知志 (奈良先端大)