238.02
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【分野】磁気応用
【タイトル】反磁界により生じる誤差を低減
磁気センサの位置・向き・感度の推定手法の改良を実現
【出典】
T. Fukui, T. Shibuya, Y. Adachi, “Estimating magnetometer position and orientation at extended distance from the calibration coil array in a magnetically shielded room” Journal of the Magnetics Society of Japan, vol.49, no.6 (2025).
https://doi.org/10.3379/msjmag.2511R005 (Open access)
【概要】
金沢工業大学足立教授らのグループは、磁気センサの位置・向き・感度を推定するキャリブレーション測定に、反磁界の影響を考慮する新手法を提案した。本成果は、磁気シールド室内で行われる生体磁場計測において、より柔軟な計測システムの構築に寄与することが期待される。
【本文】
生体磁場計測は、fT〜pTの極微弱な磁場を非侵襲に検出し、脳・心臓・神経・筋肉などの電気生理活動に伴う体内の電流分布を推定することで、その機能を可視化する手法である。生体磁場計測において体表付近に多数配置したセンサの位置・向き・感度を正確に把握することは、内部電流分布の信頼できる推定に不可欠である。そのため、複数のコイル(キャリブレーションコイルアレイ)で基準磁場を与え、センサパラメータを逆推定するキャリブレーション測定が提案されている。しかし磁気シールド室内では床や壁などの軟磁性体からの反磁界で、基準磁場の分布に歪みが生じ、推定結果に影響を与える。このため従来は、反磁界の影響を最小にするため、キャリブレーションコイルアレイとセンサを極力近づけて配置する必要があった。
本研究では、図1に示されるように、平面上に配置した磁気ダイポールアレイで反磁界をモデル化し、そのダイポールアレイパラメータをセンサパラメータと同時に推定することで、反磁界を考慮したキャリブレーションを実現した。従来、反磁界の解析には電磁界シミュレーションや反磁界係数による計算が用いられてきた。しかし前者は計算コストが高く、後者は解析できる磁性体形状が限られるため、キャリブレーション測定への適用には課題があった。足立教授らは、キャリブレーションコイルアレイが生成する基準磁場の情報から、磁気センサパラメータと反磁界を同時に推定する手法を提案し、これらの課題を克服した。図2は、反磁界の影響下におけるセンサ位置推定結果を比較したものであり、新手法が推定誤差を効果的に低減することを確認できる。本成果により、図3に示すような、キャリブレーションコイルアレイとセンサアレイを離して配置できる柔軟な計測システムの構築が期待される。なお、掲載した図は出展論文からの引用である。
文責:福井 崇人(金沢工業大学)

図1 磁気ダイポールアレイのイメージ:黄色の矢印が基準磁場ベクトルと平行な磁気ダイポールを表している

図2 反磁界の影響下で推定された磁気センサ位置のx-yおよびy-z面への投影結果

図3 心磁計測システムの構成例:磁気センサアレイとキャリブレーションコイルアレイを内包したシステム

