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日本磁気学会 第190回研究会/第47回化合物新磁性材料専門研究会報告
「生体物質の物理」

日時:2013年 5月24日(金)13:00〜17:20
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:12名

 本研究会では、物理学的なアプローチによるDNAやタンパク質など生体物質の最近の研究の進展が報告された。参加者として物性物理学のみならず幅広いバックグランドを持った方々が集まり、活発な議論が行われ、本分野の益々の拡大と発展が期待された。

講演内容:

  1. 「軟X線で見た放射線の生物影響」
    ○藤井健太郎(原子力機構)
     放射線によるDNA損傷の物理化学的な初期過程について研究するために、DNA薄膜に対して軟X線をプローブとした分光学的研究が行われた。その結果、DNA損傷の収量は構成元素のイオン化に顕著に依存すること、主鎖に存在する糖が脆弱部位の一つであることが明らかにされた。
  2. 「二価金属イオンを導入したDNAの磁性・構造・電子状態」
    ○溝口憲治(首都大)
     DNAに種々の二価金属(M)を導入したM-DNAを合成し、ESR、磁化率、光学吸収が調べられた。鉄イオンを導入した場合、Fe2+はFe-DNA中ではFe3+に変化すること、また亜鉛を導入したZn-DNAは合成法で顕著な変化を示す等、興味深いM-DNAの物性が報告された。
  3. 「ウィルスを用いたバイオミネラリゼーションによる磁気微粒子の作製と電気・磁気特性」
    ○田畑 仁、関 宗俊(東大)
     タバコモザイクウイルスを用いたバイオミネラリゼーションにより、特徴的な低次元伝導と磁気異方性を示すナノ磁性材料が合成された。大量生産・低生産コスト・低環境負荷などの点からも優れたバイオスピントロニクス技術であることが報告された。
  4. 「金属タンパクの基質結合とスピン転移のからくり」
    ○原田慈久(東大)
     金属タンパク質中の遷移金属の価電子状態変化を詳細に追うことのできる手法として、近年進展の著しい軟X線発光分光を用いることを提案するために、「ヘム鉄」を反応中心に持つヘムタンパク質に対する分析例が紹介され、将来の可能性について論じられた。
  5. 「アミノ酸の電子状態と歯科合金の親和性」
    ○鎌田雅夫(佐賀大)
    生体分子は、構造や電気的特性が多様であり、次世代材料として興味深い。硫黄を構成要素として含むアミノ酸システインに注目し、光電子分光と光吸収測定により、電子状態の分析と歯科合金との親和性が調べられたので、その成果が報告された。
  6. 「第一原理シミュレーションによる生体高分子の電子状態・ダイナミクス・輸送特性の解析」
    ○田中成典(神戸大)
     フラグメント分子軌道法などの第一原理計算手法に基づくシミュレーションを行い、タンパク質や核酸などの生体高分子の電子状態、相互作用、安定構造、ダイナミクス、輸送特性等を解析する研究の現状が紹介された。

文責:和達大樹(東大)