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第171回研究会報告
「磁場と生体」〜その相互作用と医療への応用〜

日時:2010年3月1日(月) 10:30〜17:00
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:37名

 私たちの日常生活の中で、磁場は様々なところで利用されている。MRIなどの医療機器にも用いられることから、私たちが強い磁場に接する機会も増えてきている。磁場の生体に対する影響は、古くから注目されてきたが、実は、磁場と生体の相互作用に関する科学的な理解が深まってきたのは、ごく最近のことである。これに伴って、近年は、磁場をツールとして、脳機能の解明に関する研究や、その非接触性という特色を生かした治療技術の研究も著しい進展を見せている。本研究会では、静磁場・変動磁場が生体に及ぼす影響の評価や、磁気刺激を利用した脳機能研究、磁気を用いた治療や、医療用途を目的とする電力・信号伝送技術の開発など、磁場と生体にかかわる研究の最新の成果を紹介して頂くことで、その現状を俯瞰することを目的として企画した。多くの参加者により、大変活発な議論が行なわれた。以下に各講演の概要を示す。

講演内容:
  1. 「溶液中の細胞・タンパク質における強磁場効果とパルス磁場効果の比較」
    岩坂正和 (千葉大)

    本報告では数Tから10 T超の直流強磁場が細胞及び生体物質に与える影響の研究例が紹介されたほか、時間磁場変化が数100 T/s のパルス磁場が水溶液の凍結プロセスに与える効果の検証例について議論された。
  2. 「経頭蓋磁気刺激を用いた脳機能研究」
    伊良皆啓治 (九大)

    本講演では、経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いた脳機能研究の例として、視覚探索の時間特性を単発TMSで調べた結果、また反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)の知覚交替に及ぼす影響について調べた結果について紹介された。
  3. 「電磁場はどこまで安全といえるか?−生体作用評価の現状−」
    池畑政輝、吉江幸子、早川敏雄 (鉄道総研)

    磁場の生体への作用は、その応用の研究とともに安全性に関しても十分に検討する必要がある。国際的な健康リスク評価の動向や具体的な実験結果からは大きなリスクはないと評価されるが、技術の発展とともに評価するべき電磁場の対象も増えるため、今後も適切な評価を行なってゆく必要があるという。
  4. 「電磁場生命科学における最近の話題から」
    宮越順二 (弘前大)

    電磁場の健康への影響について議論が高まっている中、細胞レベルにおけるこれまでの影響評価研究概要について概観され、さらに、強定常磁場ならびに極低周波電磁場の医療応用を目指した細胞レベルでの探索研究についての紹介が行なわれた。
  5. 「高周波磁界の医療応用〜磁気ハイパーサーミア〜」
    中川 貴 (阪大)、阿部正紀(東工大)

    正常組織への副作用はほとんどなく、がん患部のみを選択的に加温殺傷可能な磁気ハイパーサーミアに用いる発熱体として、マグネタイトナノ粒子、金めっき鉄粒子、チタン針、ペロブスカイトの発熱特性を紹介し、高周波磁界発生装置用のコイル設計指針について議論された。
  6. 「医療用非接触電力・信号伝送技術の現状」
    田倉哲也、松木英敏 (東北大)

    磁界を用いた非接触エネルギー伝送技術として、埋め込み医療機器への適用結果が紹介され、この技術は生体内という特殊な環境下においてもほとんど影響を受けることなくエネルギーを伝送することが可能であることが示された。
(文責:廣田憲之 (物材機構))