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第166回研究会報告
「環境・省エネルギー問題に資する磁気関連技術」

日時:2009年5月22日(金) 13:00〜17:40
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:34名

 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書」は、気候システムに温暖化が起きていると断定し、人為起源の温室効果ガスの増加が温暖化の原因であることもほぼ確実なことと指摘している。また、破壊的結末を防ぐために科学技術が何をすべきかが真剣に問われ多数の科学技術政策が打ち出されると共に、私たちの身の回りでもリサイクル活動や省エネ運動が盛んになってきた。本研究会では、この地球規模の問題解決に向け、「磁気」の研究にたずさわる私たちに何ができるかを考える機会を提供した。省エネ型情報機器、電力エネルギー貯蔵、そして汚染物除去をはじめ、磁気の関係する科学技術について活発な議論が交わされたとともに、持続的発展を可能とする社会の実現に向けた日本磁気学会の貢献について考える機会を持つことができた。以下に各講演の概要を示す。

講演内容:
  1. 「省電力に貢献する次世代不揮発メモリMRAM」
    石綿延行(NEC)

     磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(MRAM)の研究開発の意義が既存メモリとの性能比較によって示され、特に高速混載に適したMRAMセルについて報告がなされた。さらに、不揮発性磁気フリップフロップ(MFF)を用い、SRAMに代えてMRAMを使うことによって、待機電流がゼロでかつ必要な時のみ動作するシステムLSIを実現でき、エレクトロニクス機器の低消費電力化への貢献が期待されることが示された。
     
  2. 「省エネ型 情報通信システム及び情報民生機器におけるHDDの役割」
    出来浩(日立GST)

     HDDをより低消費電力化することにより、情報通信機器・システムやコンシューマー・エレクトロニクス機器へどのような貢献がなされるか、それらの市場に対してどのような影響があるかが示された。また、AV機器用ストレージにおいて、HDDの回転速度を制御するパワーマネジメントがなされることによって、大幅にその消費電力を低減できることが報告された。
     
  3. 「希土類磁石による高効率小型モータの最近の例」
    山下文敏(ミネベア)

     小型モータの生産は90億台/年を超え、稼動する小型モータの消費電力が国内消費電力の半分以上を占めることから、更なる小型化や高効率化が極めて大きな省資源・省エネルギー化につながるという研究開発の背景が紹介された。また、異方性を連続方向制御した高(BH)max希土類ボンド磁石と、損失低減による静音で高効率な小型モータの開発例が示された。
     
  4. 「磁気による電力貯蔵と冷凍技術」
    平野直樹(中部電力)

     エネルギー分野への磁気利用技術として、超電導技術を用いて磁気エネルギーとして電力を蓄えるSuperconducting Magnetic Energy Storage System (SMES)技術と、ガドリニウム系合金に磁界の変化を加えることで温度が変わる現象を用いた磁気冷凍システムの開発について、研究開発と検証の現状、実用化に向けた取り組みと課題について詳細な報告がなされた。
     
  5. 「環境水の磁気分離浄化技術の開発」
    佐保典英(日立)

     まず、汚染された環境水の浄化技術の重要性が、船舶の安全航行に必要なバラスト水に対する厳しい水質基準や、オイルサンドからの原油採取に用いる排油水処理などの具体的事例を用いて示された。つぎに、超電導磁石を用いた高速・高水質浄化装置が実用化レベルに近づきつつあることが具体的な数値をもとに紹介されるとともに、長期運転信頼性や運転コストの低減などの課題が議論された。
     
  6. 「低炭素社会の実現に向けて」
    甲斐沼美紀子(国立環境研究所)

     気候安定化のためには二酸化炭素を中心とする温室効果ガスの排出量が少ない低炭素社会を実現する必要があること、またその実現に向けてIPCCが描く安定化シナリオの紹介がなされた。また、2050年における低炭素社会シナリオとその実現に向けた各種新技術に求められる導入スピード、交通システム開発や我々の暮らしにおける世界各地の具体的取り組みが示され、それらを議論するにあたっての基本的・原則的な考え方について討論がなされた。
     
(文責:秋永広幸 (産総研))